韓国の捜査機関は、非常戒厳を宣言し、内乱を主導した容疑で尹錫悦大統領を逮捕した。尹大統領の逮捕を巡っては、保守派が激しいデモを繰り広げるなど混乱も生じている。韓国の保守はなぜ左派勢力に勝てないのだろうか。(立花 志音:在韓ライター) 2025年1月15日午前10時半すぎのことである。とうとう尹錫悦大統領が拘束された。その後、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)は17日に、「大統領の拘束令状をソウル西部地裁に請求した」と明らかにした。 本来、公捜処が公訴を提起する場合は、ソウル中央地裁の管轄になることを原則とする法律がある。にもかかわらず、なぜソウル西部地裁が出てきたのかというと、左派勢力の影響力が強い判事たちが在籍しているからだという話だ。 大統領の官邸が西部地裁の管轄であるソウル龍山区であるということもあるが、それが法の原則を覆すほどの理由になるのか、という大きな疑問点が残る。 高位公職者犯罪捜査処(公捜処)とは、大統領や国会議長、最高裁長官などの高位公職者の犯罪捜査を担当する独立機関である。文在寅政権の時に「権力に対する牽制、権力の均衡」を掲げて、民主主義の象徴とばかりに設立された。 そして、大統領による非常戒厳令の発令は憲法の範囲内であるにもかかわらず、それを理由に国会で弾劾され、捜査の対象になり拘束された。 非常戒厳令騒動が起こってから1カ月以上が経った。予想通り、尹大統領の弾劾案は国会で可決され、野党「共に民主党」の李在明の求心力が強まるばかりだ。現在、この国の国会は野党議員が過半数を占めている。 この期間に警察庁長官と法務大臣の弾劾を決議。大統領だけでなく大統領代行の首相も弾劾されており、完全に無政府状態に陥っている。 正式な選挙で選ばれた大統領を気に入らないからと、手段を選ばず引きずりおろし、国民の不満を煽り、煽られた国民が過激なデモをする。これが、韓国左派が謳う民主主義の世界である。 8年前との既視感が否定できない。朴槿恵大統領弾劾の悪夢が再来したように見えるが、今回は8年前とは違う世界線も見えていた。 結果的に大統領は逮捕されてしまったが、この半月の間、尹大統領の支持者たちはマイナス15度という極寒の中で、大統領官邸を体を張って守っていたのだ。