新たな捜査の一手になるか。実効性や乱用防止が鍵となる。 警察庁は、捜査員が架空の身分で闇バイトに応募し犯罪グループと接触する「仮装身分捜査」の導入に向け、実施要領をまとめた。 捜査の対象は、インターネットで実行役を募集する強盗や詐欺などの事件に限る。警察本部長が指揮し、事前計画書を承認する形で行うとし、全国の警察に通達した。 闇バイトを巡っては、昨年8月以降、首都圏を中心に民家や店舗へ押し入る強盗事件が相次いだ。横浜市では住人が暴行を受け、死亡した。多くは、中枢メンバーの摘発に至っていない。 交流サイト(SNS)で高額をかたる求人を通じ、応募者を秘匿性の高い通信アプリへ誘導する。案件ごとに入れ替わり、横のつながりの薄い流動性が捜査の壁になっていた。 このため仮装身分捜査では、応募の際に捜査員が架空の氏名や住所、顔写真を使った運転免許証や学生証を送り、別人になりすまして犯人グループと接触。犯罪が発生する前の摘発を目指している。 身分を偽る捜査は、欧米でも導入されている。本人確認書類の偽造は本来違法だが、「法令または正当な業務による行為は罰しない」との刑法の規定から違法性は退けられると判断した。 警察庁は、新捜査による首謀者の特定、募集の抑止、応募者に警察官がいるかもしれないと思わせることでの抑止効果を期待する。 懸念されるのは、犯人側と対面で接触する捜査員の安全だ。最悪の場合、拉致される可能性もある。逮捕のタイミングも難しく、実行役が集まっても強盗などの指示が確認されなければ、摘発できない。現場の負担は大きい。 末端の実行役から指示役にたどりつくのは困難との見方もある。 対象犯罪を闇バイトによる強盗や詐欺、窃盗やそれらに「関連する犯罪」としているが、具体的に明示されていない。恣意的に適用範囲が拡大されないだろうか。闇バイトを定義し、例外的な捜査手法に対する立法措置が必要との指摘もある。 捜査の運用が適切か、第三者のチェックが不可欠である。 SNS上の対策も急がれる。政府は先月、X(旧ツイッター)など事業者にアカウント開設時の本人確認の厳正化や問題投稿の迅速な削除を要請したが、秘匿性の高い通信アプリ業者は要請の対象外だ。監視と対応を強化したい。 国会で議論を尽くしてほしい。