戦後の復興期から高度経済成長期にかけ、貴重なたんぱく源として日本人を支えた鯨肉。近年は国内の生産量、消費量ともにピーク時の1%程度にまで低迷し、伝統の鯨食文化の存続が危ぶまれている。昨年には、最新鋭の技術を搭載し73年ぶりに建造された捕鯨母船「関鯨(かんげい)丸」が鯨食文化復興の期待を背負って初漁へ。ナガスクジラの捕獲も解禁されたが、前途は多難といえる。 ■半世紀ぶり捕獲 共同船舶(東京都中央区)が約75億円を投じ、昨年3月に新造した関鯨丸。仙台港を拠点に同年5月から、排他的経済水域(EEZ)の北海道沖や東北沖で初めての商業捕鯨を実施し、同年12月に母港である山口県下関市に帰港した。 関鯨丸は全長112・6メートル、総トン数9299トンの電気推進船。コンテナ式の保冷設備や、海上でクジラを探索する大型ドローン用のデッキも備えている。 日本捕鯨協会によると、約7カ月に及ぶ今回の漁では、ニタリクジラ175頭、イワシクジラ25頭、ナガスクジラ30頭、計1548トンのクジラを捕獲した。ナガスクジラの捕獲は商業捕鯨として半世紀ぶりになるという。 関鯨丸の完成で「今後30年間はクジラの供給責任を果たしていける」(共同船舶の所英樹社長)と期待もかかる。日本の捕鯨業界にとって大きな一歩となった。 ■IWC脱退影響 一方で、肝心の鯨食文化そのものが低迷する状況が続くなど、依然として課題は多い。 近年のクジラの捕獲量減少に比例するように、鯨肉の消費量は少ない。水産庁によると、ピークである昭和37年の80分の1程度の3千トンにとどまっている。 2019年に国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、非加盟国となったことも大きい。これにより、IWC加盟が条件となる南極海での調査捕鯨はできなくなり、捕鯨がEEZの200カイリ内に限定されたからだ。 水産庁はIWC脱退時に「食習慣・食文化はそれぞれの地域におかれた環境により歴史的に形成されてきたものであり、相互理解の精神が必要」と表明したが、脱退が鯨食文化の高まりにつながっていないのが現状だ。 ■過剰な保護懸念