韓国で不正選挙疑惑を唱えて非常戒厳を宣布した後、弾劾訴追され、逮捕された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を支持する極右勢力が拡大している。この事態に最も危機感を抱いているのは、2022年の大統領選で尹氏を擁立した伝統的な保守勢力だ。 「月刊朝鮮」元編集長で、保守の元老としてユーチューブチャンネルを運営する趙甲済(チョガプチェ)さん(79)は毎日新聞のインタビューに「保守は尹大統領および極右勢力と決別すべきだ」と力説した。非常戒厳は事実上失敗したにもかかわらず、自身への内乱容疑の捜査や裁判手続きに異議を唱え、戒厳軍の司令官らに責任転嫁する姿勢は「国家秩序を重視する伝統保守の発想ではない」という。一部の極右勢力が暴徒化し、尹氏の拘束の継続を認める令状を発付した裁判所を襲撃した事態も深刻に受け止めている。 また、中国や北朝鮮の工作員が20年総選挙などで中央選挙管理委員会のシステムをハッキングして選挙結果を不正に操作したとする疑惑を尹氏が非常戒厳の理由にしていることについて、最高裁判決や大手メディアのファクトチェックで「事実ではないとはっきりしている」と指摘。「24年の総選挙で、疑惑を解消するため、手作業で数える開票の工程を(2回に)増やし、誤差がなかった。これ以降、陰謀論者は静かになっていた。にもかかわらず、尹大統領が蒸し返して火を付けた」と非難した。 趙さんは、不正選挙陰謀論が国民の反中感情を刺激して拡散している点を憂慮する。「ナチス・ドイツが拡大した背景には、既存の法体系全体を無視し、ユダヤ人に対する陰謀論を唱え、暴力に走るという3要素があった。今の韓国の極右勢力も3要素が垣間見える。このままでは極右全体主義に陥る危険性がある」と語り、大統領の暴走をけん制できる副大統領制の導入など統治システムの見直しが必要との考えを示した。【堀山明子】