「陰の支配者」「職場のドン」 京都市汚職事件、改革から見落とされた「あしき慣習」とは

契約の公正さは保たれていたのか。京都市発注の下水道の緊急工事を巡る汚職事件で、京都府警捜査2課は7月、収賄の疑いで市上下水道局みなみ下水道管路管理センター(南区)主事の男(64)=収賄罪で起訴=を逮捕した。事件の背景には、契約の特殊性と市の「改革」から見落とされていた同局のあしき慣習があった。 主事の男は、2021年12月、伏見区内の緊急のマンホール整備工事などを巡り、左京区の土木工事会社が下請けとして業務受注できるよう便宜を図った見返りなどとして同社役員の男(52)=贈賄罪で起訴=から現金10万円を受け取ったとされる。 主事の男の業務は、下水道施設の維持管理や点検で、工事の発注や契約には携わってない。男はどのような立場にあったのか。 緊急工事は、水道管の破損や災害に伴うものが対象だ。早期復旧が優先されるため入札にかけず、事前に登録した業者との間で随意契約を交わす。急な発注のため「通常の工事単価よりも高くなることもある」(上下水道局幹部)という。 捜査関係者の説明では、今回の緊急工事の総額は約100万円というが、土木工事会社役員の男は今後も工事を受注したいとの思いから賄賂を送ったとみられる。工事の必要性の判断や契約額は妥当だったのか。外部からチェックできる仕組みが必要だろう。 工事の発注経過を巡る不可解さもあった。緊急工事の登録業者の多くは大手だが、実際の工事は技術面などから下請け業者が担うケースが多く、今回の事件も同様だった。下請け業者の選定は、元請けが行うとされ、行政側の仲介は禁じられている。 しかし捜査関係者によると主事の男は、工事発注を担当する同僚に働きかけ、当該の土木工事会社が下請けとなるよう仕向けていたとみられる。事実上のあっせん行為を可能としたのは、男が長年同じ職場に在籍してことが影響していた可能性がある。 主事の男は、技術職として約20年前から現在の職場に勤務していた。「陰の支配者」「職場のドン」-。取材で耳にした言葉だ。ある管理職は「長期在職者は上司にも威圧的な発言を行う。権限はないが、強い発言力で現場を仕切っている」と内実を明かす。 市は不祥事が多発した06年度に改革大綱を策定。業者との癒着を防ぐため10年以上同じ職場に在職しないよう定期的な異動を実施する、としていた。だが上下水道局では、職場内での役割が変われば10年以上在職できる独自ルールがあり、同局幹部は「癒着の温床となっていたことは否定できない」と漏らす。 市は再発防止に向けて検証チームを立ち上げた。事件を教訓に、実効性ある対策を講じることができるのか。行政の本気度が問われている。

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