老老介護が始まることを恐れた夫は、その不安を鎮めようと、妻の首を締め続けた-。58年間連れ添った妻を殺害したとして殺人罪に問われた87歳の男に対し、懲役8年の実刑判決が東京地裁で言い渡された。妻の命を奪うほどに思い詰めたきっかけは、家事のできない不安と、「最後の昼食」だったという。 ■「米も炊いたことない」 「介護をする前に殺そうと思ったのか」「丸く言えば、そうですね」 9月、東京地裁で開かれた殺人事件の被告人質問。検察官の質問に対し、吉田春男被告(87)は、淡々と応じた。 被告は令和5年12月14日、東京都練馬区の自宅で妻=当時(81)=の首を絞めて殺害したとして、殺人罪で起訴された。 足を悪くするなど体が不自由になり始めていたが、妻は介護認定を受けていなかった。「私は家事はできない。(将来的に)介護を要求されても、できないと思う」。被告人質問で、被告はこうも語った。 検察側や弁護側が公判で示した証拠などによると、被告と妻は昭和40年に結婚し、2男1女に恵まれた。長女は結婚して家を出たが、長男と次男は被告夫妻と同居するようになった。 「男子厨房(ちゅうぼう)に入らず」を地で行く亭主関白だった被告は、「米を炊いたこともない」。2人の息子も、家事はほとんどしない。それでも不自由がなかったのは、妻がいたからこそだった。 ■口論が増え始め だが、そんな生活に数年前から異変が生じていた。足を悪くした妻は杖を突き始め、令和4年11月には通院途中に転倒。外出の機会もめっきり減り、買い物は被告が担うようになった。 生活のリズムが崩れた影響か、妻は耳も遠くなり、夜中まで居間のテレビを大音量で見るように。事件の数カ月前にはテレビの音量を巡って2~3日に1回は夫婦で口論するようになっていた。 「自宅を売って(夫婦で)老人ホームに入りたい」。事件の1カ月ほど前、被告は長男にこう打ち明けたが、長男からは「すぐにはできない」と返された。妻を在宅介護する未来が、現実味を帯び始めていた。 ■「途中でやめたら後遺症が…」