自民党旧安倍派の政治資金規正法違反(裏金)事件を巡り、衆院予算委員会は同派会計責任者(禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決確定)の参考人招致を、野党の賛成多数で議決した。自民党は「私人で確定判決が出ている」などとして採決で反対。会計責任者は、参考人として予算委の聴取を受けるに当たり、条件を自民党に示している。しかし、国会の歩みを振り返れば、多数の「私人」が、参考人どころか、「証人」として喚問されている例が多数ある。(時事通信解説委員長 高橋正光) ◇参考人招致を多数決で議決 事件を巡っては、派閥パーティー券の販売ノルマ超過分の収入を、政治資金収支報告書に記載せず、裏金とするシステムが、誰の指示でいつから始まったのかなど、実態はほとんど未解明。その中で、派閥会長の安倍晋三元首相がこうした処理方法の中止を指示しながら、同氏の死後に再開された経緯が、解明の焦点の一つとなっている。 同派の元幹部は衆参両院の政治倫理審査会(政倫審)で、再開決定への関与を否定。これに対し、会計責任者は裁判で「幹部議員が復活を要求し、再開された」と証言し、元幹部らの説明と大きな齟齬が生じている。 また、衆院選後に政倫審に出席した同派議員の大多数は、収支報告書への不記載は、「派閥の指示」と弁明している。 野党各党は衆院予算委員会での2025年度予算案の審議入りに先立ち、会計責任者の参考人招致を要求。自民党が応じなかったため、安住淳委員長(立憲民主党)は採決に踏み切り、野党の賛成多数で招致を議決した。当初、賛成の構えだった公明党は、採決前に退席した。 議決後、自民党の井上信治与党筆頭理事は「会計責任者は私人で、確定判決も出ており、招致に反対してきた」と強調、「全会一致の慣例を半世紀ぶりに破ることは大変遺憾。数の力による議事運営は厳に慎んでもらいたい」と野党を批判した。 ◇会計責任者、聴取に条件 ある案件の調査のため、国会が関係者を招致する方法としては、「参考人」と「証人」がある。いずれも、各委員会での議決が必要だが、前者は出席を強制されず、虚偽の説明をしても刑事責任を問われない。 これに対し、後者は、議院証言法で規定され、正当な理由(自己または親族が訴追を受ける恐れがある場合など)がなく出頭や証言を拒否したり、虚偽の証言をしたりすれば刑事告発される。 また、多数派が「数の論理」で招致を乱発するのを避けるため、「全会一致」で決めることを慣例としてきた。衆院予算委で、多数決により参考人招致を議決したのは、1974年以来、51年ぶりという。 近年では、まずは参考人として招致し、説明を聴取。真相解明が進まない場合に、証人喚問に切り替えるケースが目立つ。今回の裏金事件で会計責任者は、裁判での証言以上の話がないことや、有罪判決が確定していることなどを理由に、当初は招致に応じない意向を安住委員長に伝えた。 その後、自民党の説得により、予算委の出張形式での聴取に20日に応じることとなったが、(1)聴取は非公開(2)日時や場所も非公開―との条件を示した上、事前に通告された質問内容にも異議を唱えた。 このため、野党が反発。19日に予定された政治資金問題に関する集中審議も見送りとなり、立民の笠浩史国対委員長は「閉鎖的な形で行うなら、白紙に戻し、証人喚問も選択肢として臨まざるを得ない」と述べ、証人喚問に切り替えて議決し直す可能性に言及した。 そもそも派閥は、「公人」たる国会議員の集団。しかも、パーティー収入は原則非課税だ。その集団で、会計を任されながら、収支報告書に収入を虚偽記載し、法令違反に問われたのが今回の事件。これらを踏まえ、安倍派の会計責任者について、野党からは「純粋な民間人と言えるのか」(立民幹部)との声も漏れる。