アングル:メローニ伊首相、改革掲げ司法界と真っ向対立 支持率上昇で勝算も

Angelo Amante Crispian Balmer [ローマ 17日 ロイター] – イタリアのメローニ首相が、裁判官と検察官に高い独立性を認めた同国独特の司法制度の改革を目指して司法界と対立している。司法機関側は改革圧力に抵抗し、今月に異例のストライキを打つ予定だ。 同首相の政治的な盟友で「師」でもあった故ベルルスコーニ元首相も現行制度を変えようとしたが、取り組みは頓挫した。だがメローニ氏は富豪のベルルスコーニ氏と異なり利益相反という問題を抱えておらず、勝算があるかもしれない。 裁判所は1月、政府が計画していた移民のアルバニア収容施設への移送を差し止める判決を下した。差し止めは3度目。判決によってイタリアへの難民の流入を抑制するというメローニ氏の政策は法的に宙ぶらりんの状態に置かれている。 さらに検察当局は同じ週、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ていたリビアの警察幹部をイタリア政府が釈放した決定をめぐり、メローニ氏と閣僚らを捜査対象にするという衝撃的な措置を取った。 メローニ氏が率いる右派政権は移民移送に関する判決に反発。強大な司法機関が政治的な動機に基づいて行動していると非難した。世論調査では有権者の多くが政府の姿勢を支持しており、これが政権の支えとなっている。 メローニ氏は1月下旬のテレビインタビューで「基本的に彼ら(裁判官や検察官)は自分たちで統治を行いたいのだ。しかしそれは問題だ。もし私が間違えを犯したら国民は選挙で私を落選させることができる。しかし彼らが間違えても、誰も何も言えず、何もできない。民主国家の権力の機能とはそのようなものではない」と改革の正当性を訴えた。 イタリアの司法制度は欧州で最も機能不全の度合いが深刻なものの一つ。近年改善が図られたが、2022年のデータによると民事訴訟では最終判決に至るまでに要する時間が欧州平均の4倍、刑事裁判では3.5倍となっている。 中道左派政権は主に裁判の効率向上に重点的に取り組んできたが、2023年に死去したベルルスコーニ氏は、自身のメディア帝国に関連する数々の裁判に直面していたこともあり、検察の権限抑制を何度も試みた。 これに対して改革反対派は、ベルルスコーニ氏の取り組みは自らの法的問題を軽減するのが狙いと抵抗。ベルルスコーニ氏は結局、ホワイトカラー容疑者の訴追を難しくすることには成功したが、検察官と裁判官を結びつけている仕組みを断ち切ることはできなかった。 米国や英国と異なり、イタリアは裁判官と検察官がキャリアパスを共有し、監督機関も同じであるため、政府が干渉できない仕組みとなっている。 <公正性> 2022年に政権を握ったメローニ氏は司法制度を分割するという過去の構想を再び取り上げ、裁判官と検察官の関係を断ち切ることで裁判官の公正性が高まると主張している。 フランチェスコ・パオロ・シスト司法副大臣はサッカーの試合を引き合いに「審判が、出場する2チームのいずれか1つと同じ都市出身ということはありえない。出場チームと違う都市から選出する必要がある。同じように裁判官も独立した立場であるべきだ」と改革の意義を訴えた。 一方、司法界は、政府が検察の権限を掌握し、特定の犯罪について捜査回避を指示しようとしていると批判。ナポリの主任検察官でマフィアの取り締まりで知られるニコラ・グラッテリ氏は「改革は有害な結果をもたらすだけだ。キャリアを分離すれば検察官は超警察官のような存在になり、公正性という文化を失う」と述べた。 政府は、一部の検察官や裁判官が司法権を行使して改革を阻止しようとしていると非難しており、両者の対立は今後数カ月にわたり国内政治の争点になりそうだ。 <障害> イタリア最高裁の検察官マルコ・パタルネッロ氏は昨年10月、同僚に宛てた書簡で、メローニ氏は法的な捜査に巻き込まれていない上に、「政治的なビジョン」に基づいて行動しており、法的問題を抱えていたベルルスコーニ氏よりも「はるかに危険な」存在だと警告した。 書簡の内容が報じられ、パタルネッロ氏も内容を認めた。同氏は書簡で、1990年代と異なり世論がもはや司法界側を支持していないことも認めていた。 司法改革に向けた法案はすでに下院で承認され、現在上院で審議が行われている。成立には憲法改正が必要なため、上下両院で2回の審議が義務づけられており、その後、国民投票に諮られるのがほぼ確実となっている。 しかしメローニ氏は支持率が2022年よりも上昇している。司法制度の機能不全にうんざりしている有権者の支持もあり、議会審議の障害を乗り越えて一段と足場を固めるのではないかと専門家は指摘する。 モデナ・レッジョ・エミリア大学のコミュニケーション専門家、マッシミリアーノ・パナラリ氏は「メローニ氏にとって選挙面の悪影響はほぼないだろう。メローニ氏が対立路線を選んだのは偶然ではない」と述べた。

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