昨年12月27日から2カ月近くにわたって行われてきた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾裁判で、憲法裁判所の裁判官は、尹錫悦大統領と証人を自ら尋問し、争点を整理した。裁判官たちは特に、軍を動員して国会の無力化と政治家らの逮捕を試みたこと、非常戒厳宣布の違憲性などに集中的に関心を向けているようだった。尹大統領による違憲、違法な権力行使に直結する部分だ。 ■「なぜ窓ガラスを割って国会に入ったのか」 「秩序維持のみを目的として軍の兵力を動員したと…軍の兵力はなぜあえて窓ガラスを割って中に入ったのですか」(チョン・ヒョンシク裁判官) 先月23日に尹大統領の弾劾裁判の最初の証人として出廷したキム・ヨンヒョン前国防部長官が、「秩序維持のために」国会に兵力を投入したと一貫して主張したことに対し、主審のチョン・ヒョンシク裁判官は、なぜ軍は国会内に入ったのか、しかもなぜガラス窓を割ってまで入ったのかを尋ねた。キム前長官が「衝突が起きたので進入した」と答えると、チョン裁判官は「入ったから衝突が起きたのではないか」と問い返した。ムン・ヒョンベ憲法裁所長権限代行は尹大統領に、「イ・ジヌ首都防衛司令官とクァク・チョングン特殊戦司令官に国会議員を引きずり出せと指示したことがあるか」と直に尋ねた。国会の権限を無力化しようとした違憲的な権力行使だったかどうかを確認する質問だった。チョン裁判官は、クァク・チョングン前陸軍特殊戦司令官が尹大統領に引きずり出せと言われた対象を「人」、「人員」、「議員」と様々に表現したことに対し、「(大統領に)言われたことだけを正確に話せ」と催促した。最終的にクァク前司令官は、尹大統領の指示は「議決定足数がまだ満たされていないようだ。人員をすべて引きずり出せ」というものだったと整理した。裁判官たちは職権で証人採用した首都防衛司令部のチョ・ソンヒョン第1警備団長に対する尋問で、「(イ・ジヌ前首都防衛司令官から)『本庁内部に進入して国会議員を引きずり出せ』と指示された」との核心を突く証言を引き出した。 尹大統領がチェ・サンモク企画財政部長官に渡した文書に記されていた「国家非常立法機関」の設置も、国会無力化の試みとつながっている。ムン権限代行は「国家非常立法機関の関連予算を編成せよというメモを企画財政部長官に渡したことがあるか」として、これを否定している尹大統領の立場をまず確認した。イ・ミソン裁判官はキム前長官に、「国家非常立法機関は第5共和国の国家立法会議のようなものか」と質問している。キム・ヒョンドゥ裁判官は「(非常立法機関の設置の)最も主となる目標は立法機関である国会の機能を停止するという、そのような意図があったとみられる」と述べている。 ■違法な逮捕の試みと国務会議 尹大統領とキム前長官からはじまったといわれる「逮捕者名簿の下達」にも、裁判官たちの関心が集中した。チョン・ヒョンシク裁判官は今月4日の第5回弁論に出廷した国家情報院のホン・ジャンウォン前第1次長への尋問で、ヨ・インヒョン前防諜司令官から電話がかかってきて名簿を書き取ったというメモについて集中的に掘り下げた。チョン裁判官は「(逮捕者名簿の)メモはなぜ作成したのか」、「なぜ正確に『検挙支援要請』とは書かずに『検挙要請』と書いたのか」と尋ねた。ホン前次長は「緊迫した状況で起承転結に合わせてできたかは分からない」と述べた。キム・ヒョンドゥ裁判官は、ホン前次長から「大統領による政治家逮捕指示」についてきちんと報告を受けていないというチョ・テヨン国情院長の主張に対しても、「ホン・ジャンウォンがそんなにのんきな話をしたとは思えない」と述べて疑問を示している。 裁判官たちは、非常戒厳宣布に手続き的な問題がなかったかも集中的に確認した。憲法は国務会議で非常戒厳宣布案件を審議するよう定めており、細部手続きは戒厳法に規定されている。キム裁判官は、憲法裁に証人として出廷し最後まで尹大統領を擁護したイ・サンミン前行政安全部長官に、「ハン・ドクス首相は懇談会程度だと評しており、オ・ヨンジュ長官は国務会議だとは思わなかったと語っている。証人は国務会議だと思ったのか」と繰り返し確認した。キム裁判官は「(国務会議の適法性は)司法手続きを通じて判断されなければならない」として回答を避けたハン首相にも、「司法手続き的な判断をしてくれというのではなく、証人個人の考えを話してくれということ」だと促し、「通常の国務会議ではなかった。形式的、実体的な欠陥があったというのは一つのファクト」だとの回答を引き出した。 弾劾裁判の進行を担ったムン代行を除き、主審のチョン裁判官、そしてキム裁判官は自ら尋問し、争点を整理していった。チョン裁判官とともに受命裁判官(準備手続きで当事者の主張、証拠、争点をあらかじめ選別、整理することを役割とする)を担ったイ裁判官は1度質問し、チョン・ジョンミ、キム・ボッキョン、チョン・ゲソン、チョ・ハンチャンの各裁判官は直接尋問していない。憲法裁の関係者は「評議では裁判官全員が広範に意見を開陳するが、裁判の過程で質問するかどうかは裁判官一人ひとりのスタイルによって違いがある」と説明した。 チャン・ヒョヌン記者 (お問い合わせ [email protected] )