冤罪(えんざい)の可能性と真摯(しんし)に向き合ったのか。結論ありきの決定だった印象は拭えない。 鹿児島県大崎町で1979年に男性の遺体が見つかった「大崎事件」の第4次再審請求審である。 最高裁は今週、殺人罪などが確定し服役した原口アヤ子さん(97)の裁判のやり直しを認めない決定を出した。 請求を退けた2023年の福岡高裁宮崎支部の決定を支持し、原口さん側の特別抗告を棄却した。弁護団は5回目の請求を行う構えだ。 決定は裁判官5人中4人の多数意見である。行政法学者出身の宇賀克也裁判官は「再審開始決定を行うべきだ」と反対意見を付けた。 95年4月から繰り返された再審請求で、最高裁の裁判官が再審開始を支持する考えを表明したのは初めてだ。この事実は極めて重い。 確定判決によると、原口さんの義理の弟である男性は酒に酔って側溝に転落し、隣人2人が軽トラックの荷台に乗せて男性宅へ連れ帰った。原口さんは男性の泥酔した姿を見て殺害を決意し、夫や親族と共謀して首を絞めて殺害した、とされた。 弁護団は今請求審で、男性は事故で死亡した可能性が高いとする医学鑑定を新証拠として提出した。 宇賀裁判官は新証拠について「専門的知見に裏付けられた見解で尊重に値する」と評価した。共犯とされた親族の自白の不自然さなども踏まえ、確定判決の事実認定に「合理的な疑いが生じる」と明快に述べた。 これに対して多数意見は新証拠の証明力には限界があると一蹴した。今回の決定は、第3次請求審で地裁、高裁が認めた再審決定を取り消した19年の最高裁決定をほぼ踏襲した。新旧の全証拠を丁寧に吟味したとは到底言えず、説得力は乏しかった。 原口さんは逮捕時から一貫して無実を主張してきた。地裁と高裁で計3回、再審開始決定が出ている。加えて今回、最高裁の裁判官も再審開始を支持した。確定判決に看過できない疑いが生じていると言えよう。 最高裁判例の白鳥・財田川決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審にも適用されると明確にした。この決定に照らし、最高裁は再審開始を認めるべきだった。 再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正が急務だ。 静岡県の一家4人殺害事件の元死刑囚、袴田巌さん(88)への再審無罪判決を受け、世論は高まっている。 議員立法を目指す超党派の国会議員連盟は、裁判所の再審開始決定に対する検察の不服申し立て禁止などを盛り込んだ改正案の骨子を今週了承した。速やかに成立させるべきだ。 無実の人が何十年も苦しみを強いられかねない。そんな不条理を、これ以上放置してはならない。