6日に始まった福井中3女子生徒殺害事件の再審公判は即日結審した。昨年10月の再審開始決定は、警察の供述誘導や検察の公判での証拠隠しが疑われると指摘。検察側は弁論でこれに対する反発もにじませ、有罪主張を維持したが、新たな立証はできず、無罪判決が確実視されている。 前川彰司さん(59)は黒いスーツ姿で出廷。事件当時は20歳だったが、短く生えそろえたひげには白い色が目立った。意見陳述で「再審公判では検察が無罪を主張すべきだった」と述べた際には検察側に抗議の視線を送り、「39年にわたる長い年月を、私はこの事件のために犠牲にした」と訴えた。 《前川さんは男性が運転する車で現場付近に向かい、車を降りてしばらくすると血を浴びた状態で帰ってきた。2人は暴力団組員(当時)に助けを求め、組員は別の知人男性を迎えに向かわせ、かくまった》 平成7年の有罪判決は事件後の流れをこう認定した。 捜査側がこうした見立てに行き着いたきっかけは、覚醒剤事件などで逮捕されていた組員が事件の約7カ月後になって始めた供述。内容は何度も大きく変わり、迎えに行ったとされた男性自身も事件当日は別の場所にいた記憶があった。 男性を事件に結びつける〝接着剤〟の役割を果たしたのが、テレビ番組「夜のヒットスタジオ」だった。事件当日に放送されたシーンを一緒に見た後、男性が組員に呼ばれたという友人証言もあり、男性自身も裁判では同様の証言をした。 しかし再審請求審の中で、事件当日にこのシーンが放送されておらず、検察側も1審途中には事実誤認を認識していたことが判明。再審開始決定はこれも踏まえて、男性らの証言に疑義を認め、一連の関係者証言は「警察官が組員の供述にすがりつくようにして知人らを誘導し虚偽供述させた可能性がある」とした。 この日、検察側は従来の主張から番組に関する点を撤回する一方、それが与える影響は「限定的」と強調。証言した人は多く「誘導して組員のストーリーに沿った供述をさせた可能性は考えられない」と反論した。ただ追加の根拠は示さず、確定審までの証拠をもとに「当時と同様の判決がされることを求める」と述べるにとどめた。 甲南大の笹倉香奈教授(刑事訴訟法)は「関係者供述の再評価によって再審開始を認めたことがこの事件の特徴だ」と指摘。DNA型鑑定といった動かぬ証拠はないが「開始決定は検察側の開示証拠に基づき、関係者供述をきわめて丁寧に検討しており、新たな反論はせずに有罪を求めるという主張は、成り立たないのではないか」と疑問視した。(西山瑞穂)