警察による供述調書の捏造は令和でも続いている…決して「昭和の話」ではないのだ【「表と裏」の法律知識】

【「表と裏」の法律知識】#273 袴田事件に続き、再審事件の報道が続いています。そのような冤罪悲劇の裏には、推定無罪の原則など意に介さない傍若無人な警察官による自白強要があります。そのような警察の言動は「昭和の話でしょ」と思われる方も多いかもしれません。しかし、令和の現在でもいまだに正義をはき違えた警察官による自白強要は行われているのです。 2025年3月7日、佐賀地方裁判所において、虚偽の自白を強要されたとして、県に対して計330万円を求めた国家賠償請求訴訟の判決が下されました。窃盗事件で逮捕された男性らが2021年1~3月に、供述していない内容の調書を警察官に作成されたと訴えている裁判です。 判決内容は、県に対し1万1000円の国家賠償を命じるものでした。 警察官は、被疑者が自白をしていないことを認識しながら、異なる場面や文脈で述べた言葉を組み合わせ、犯行状況や自白に至る心理的変化を供述しているかのような調書を作成したと裁判所が認定し、その行為が職務上の法的義務に違反し、違法であると判断しました。 内容虚偽の供述調書が捏造されると、実際には言っていない内容が、言っていることとして扱われ、それを前提とした裁判が進み、判決が下される可能性があります。実際の裁判でも、被告人がどんなに供述調書は虚偽だと主張しても、裁判所は「被告人の供述調書は信用できる」などと簡単に判断をして有罪判決を書きます。 この問題は取り調べの可視化(録音・録画)により大半が解決可能です。自白を取れば「落とした」として評価される警察官の認識を変えるのは簡単ではないですが、取り調べの現場での言動がすべて記録されていれば、不適切な行為はすべて白日の下にさらされます。 このような話をすると、弁護士は犯罪者の肩を持つ、巧妙な犯罪者を守っているなどと批判をされることがあります。確かにそういう側面はあるかもしれません。しかし、刑事裁判で求められることは、10人の真犯人を野に放つこととなっても、1人の無罪の者を誤って処罰してはならない、という原則です。死刑判決を受け、いつ処刑されるかわからないという精神的苦痛は想像を絶します。そのような状態に袴田さんは58年もの間置かれていたのです。警察官による自白強要は、このような1人の無罪の者を誤って処罰する結果をもたらす結果しか生みません。 読者の皆さんも、犯罪とは無縁だと思っていても、ある日突然、「痴漢だ」「詐欺だ」と疑いをかけられることはあり得ない話ではありません。供述調書の捏造が引き起こす問題について、私たちは決して他人事ではないのです。 (髙橋裕樹/弁護士)

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