「胸を舐められた」は濡れ衣だった…逮捕された乳腺外科医が"無罪確定"までの9年で仕事も息子も失った悲痛

手術が終わった後の女性患者にわいせつな行為をしたとして、乳腺外科の医師が準強制わいせつの罪に問われた裁判。一審無罪のあと、控訴審では一転有罪(実刑2年)になったものの、最高裁で破棄され、この3月半ばの差し戻し控訴審で無罪の判決が出た。医師の筒井冨美さんは「手術の全身麻酔後にせん妄(幻覚)を見る患者がいる。今後は、医療の専門家の意見が採用されやすくなるような司法改革を望みたい」という――。 ■「乳腺外科医わいせつ疑惑」事件とは 2016年5月、東京都内の病院に勤務する男性外科医のA医師(現在49歳)が、当時30代の女性B子の右胸から乳腺腫瘍を摘出する手術を行なった後、B子から「左胸を舐め回され、乳房をはだけさせて自慰行為をされた」などと訴えられて警察官の取り調べを受けた。 警視庁科学捜査研究所の鑑定ではB子の胸からはA医師のDNA型が検出され、同年8月に逮捕、9月に準強制わいせつ罪で起訴された。 この事件に関して、医療関係者の間では、直後から 「全身麻酔後によくあるせん妄(幻覚)だったのでは」 「DNAは診察中の会話などで付いたのでは(コロナ以前の事件だったのでマスクは厳格でなかった)」 などと話題になっていた。「裁判できちんと審議されれば、速やかに疑いは晴れるだろう」と楽観的に予想した医師が多く、私もその一人であった。 ■無罪→有罪(実刑2年)→最高裁で破棄→差し戻し控訴審無罪 その予想通り、東京地方裁判所で無罪判決が言い渡された(2019年2月)。胸を舐められたとするB子の証言について、全身麻酔後によるせん妄と判断されたのだ。証拠とされたDNAは、鉛筆で記載されたワークシートしか残っておらず、DNA抽出液はすでに廃棄されていて、「証明力は十分なものとは言えない」とされた。「これで一件落着」と多くの医師が安堵していたが、東京地検は判決を不服として控訴した。 すると、2020年2月の控訴審では無罪判決は破棄された。せん妄の可能性は否定され、懲役2年の実刑判決がA医師に言い渡されたのだ。弁護側は即日上告し、日本医師会は記者会見で「極めて遺憾」と表明するなど、医療界は騒然となった。 そして、2022年2月。最高裁はせん妄の可能性を認めた上で、検出されたDNAの量に対する検討が不十分だと二審の有罪判決を破棄し、東京高裁に審理を差し戻していた。 2025年3月12日、その差し戻し控訴審では一審判決を支持し、無罪が確定した。事件から約9年の時間が過ぎていた。 ※「乳腺外科医事件に再び無罪判決 弁護団は『遅すぎる』と批判 『長くて辛い日々だった』と医師」(Yahoo!ニュース、2025年3月12日)

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