「同じようなこと、起こりうる」オウム元幹部・林郁夫受刑者と対話続ける元捜査員 地下鉄サリン事件30年

「サリンをまきました」-。平成7年の地下鉄サリン事件の実行犯の1人で、オウム真理教の元幹部、林郁夫受刑者(78)=無期懲役で服役中=から全面自供を引き出した元警視庁捜査員、稲冨功さん(78)は、今も受刑者との対話を続ける。事件から20日で30年。「同じようなことは、また起こり得る」。極端な情報や主張に翻弄されがちな世相に、鋭い視線を向けている。 ■洗脳解くことに注力 オウム捜査に関わるようになったのは、7年2月、その後死亡していたことが明らかになる目黒公証役場事務長の仮谷清志さん=当時(68)=が拉致された事件がきっかけだった。当時は各種事件の初動捜査を担う第3機動捜査隊に所属していたが、捜査1課の応援に入ることに。同3月20日に地下鉄サリン事件が発生し、22日の山梨県上九一色村(当時)の教団施設への強制捜査に携わった。 翌4月、元信者の女性の監禁事件に携わったとして逮捕された林受刑者の取り調べ担当に指名された。サリン事件への関与は、この時点では強く疑われていなかったという。 林受刑者は監禁の事実を素直に認め、起訴に持ち込めると確信した。むしろ腐心したのは、どうやって教団から心理的に離れさせるのか。相手は、慶応大卒、米国留学もした医師。論理では説得できないと考え、上司の叱責を受けながらも、林受刑者を、医師にとって身近な「先生」と呼んで距離を縮めた。林受刑者と同学年だったことから身の上話も織り交ぜ、洗脳を解くよう心がけた。 5月6日。その日は、林受刑者の様子が違った。午前中の調べで、「オウムの出家信者がオウムを辞めて社会に帰ってきたら、社会が受け入れてくれると保証してくれますか」と聞いてきたのだ。その日の午後の調べを終えようとしたとき、林受刑者が「話があります」と切り出し、サリンをまいたことを打ち明けた。 「嘘だろ。誰かかばっているんじゃないの」。そう声をかけたが、自供は揺るがなかった。翌日以降の取り調べで、「サリンを入れた袋のセロテープの切り方がストレートだった」などとする詳細な供述が、実況見分調書と一致。ほかの実行犯の名前も明かし、事件の全容解明の突破口となった。 ■環境で犯罪者に

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