【北京=三塚聖平】中国当局がアステラス製薬の日本人男性社員をスパイ容疑で拘束してから20日で2年となった。昨年11月に初公判が開かれたが、今も容疑内容に関する説明はない。日本側は反スパイ法の「不透明な運用」に懸念を示し、日本企業の対中ビジネスにも影を落としている。 「なぜ拘束されたのか今もはっきりとしたことは分からない。早く解放されることを願うばかりだ」 男性と付き合いのあった日本企業関係者は困惑した表情を見せる。 男性は2023年3月20日に北京市内で拘束された。駐在期間を終えて帰国を控えていた男性は、自宅を引き払った後に滞在していたホテルから空港に向かったところで消息を絶った。その後、中国側が日本政府に男性を拘束したことを通知した。男性は、中国に進出する日系企業でつくる中国日本商会の幹部も務めた経験を持つベテラン駐在員だったため、現地の日本人社会に衝撃を与えた。 男性は23年10月に正式に逮捕され、昨年11月に北京市第2中級人民法院(地裁)で初公判が行われたが内容は公開されていない。 14年の反スパイ法の施行後に少なくとも17人の邦人が拘束され、現在も5人が帰国できていない。事案の詳細は明らかにされておらず、日中関係筋は「反スパイ法の不透明な運用について問題提起して対応を求めている」と強調する。 日本側は、近く東京で開かれる岩屋毅外相と王毅共産党政治局員兼外相との会談で、拘束邦人の早期解放を求める方針だ。 邦人拘束は日本企業社員の対中心理に影響を与えている。外務省の海外在留邦人数調査統計によると、昨年10月時点で中国に住む日本人は前年比4・2%減の9万7538人だった。国・地域別の在留邦人数でオーストラリアに次ぐ3位に後退し、20年ぶりに10万人の大台を割り込んだ。中国の景気後退や現地企業との競争激化、生活コスト上昇といった要因もあるが、北京の日本企業幹部は「反スパイ法など安全面の心配から中国駐在を拒む社員が増えている」と吐露した。