九州の成長のけん引役で人口約510万人を抱える福岡県のトップに、無所属で現職の服部誠太郎氏(70)=自民、立憲民主、国民民主、公明、社民推薦=が再選した。23日投開票された県知事選で、有権者は失点が少なかった服部県政の1期目をまずは“信任”した格好だ。一方で、有力者がひしめく同県で、自主性を発揮し必要な施策を打ち出せるかは、2期目の課題として残る。 ◇ワンヘルス是非、争点に急浮上 「『某議員さんが言っているからやるんやろう』ということでは全くない」 福岡県直方市で15日にあった個人演説会。服部氏が「釈明」したのは、1期目の政策の柱の一つとして進めた、人と動物の健康増進を一体的に図る「ワンヘルス」についてだった。 「某議員」とは、服部氏が「ワンヘルスの伝道師」と持ち上げる「県議会のドン」で獣医師の蔵内勇夫・自民県議(71)だ。選挙戦で対立候補が「蔵内氏のためにやっている」「利権の構造だ」などと批判し、急きょ争点に浮上していた。 実際、前回選挙(2021年)で県議会から出馬要請を受けた服部氏が知事に当選し、ワンヘルス事業は急拡大した。「ワンヘルス総合推進室」は課に昇格し、蔵内氏が会長を務める「アジア獣医師会連合(FAVA)」の日本拠点が、県施設が入る「アクロス福岡」(福岡市)に開設された。 22年度から4年間のワンヘルス関連予算は、当初予算ベースで計100億円超に。他候補からの「無駄遣いだ」との指摘に、服部氏は「しっかり説明すべきだった」と軌道修正し、イノシシなどの有害鳥獣対策や老朽化した県の保健環境研究所の移転整備費が含まれているなどと説明。感染症対策の一環だと強調した。 知事選が告示される直前の2月中旬には、高齢者の健康づくりの一環として県が推進する「ケア・トランポリン運動」事業で、予算案を通すために有利な取り計らいをしたとして元県議が逮捕され、汚職事件に発展。服部氏は「県の予算編成に議員が直接圧力をかけることはない」と強調したものの、強すぎる議会の影響を指摘する声が出た。 こうしたなかで服部氏のワンヘルスへの説明が増えた背景を、ある県政関係者は「批判を気にせざるを得なかったのだろう。ワンヘルスだからなんでも予算を付けているという誤解を解消する必要があると考えたのではないか」とみる。 ◇有力者の主導権争いの舞台にも もっとも、服部氏が前回に続き、選挙戦で自民を中心とする県議団の支援を受けている実態は変わらない。非自民の県議は選挙運動に力を入れる自民県議の動きに「『これだけ選挙で応援したのだから、2期目当選したらこれからもよろしく』ということだ」と解説。ある自民県連関係者は「議会が知事を評価するのは、ちゃんと言うことを聞くからだ」とあけすけに語る。 一方、今回の選挙では鳴りを潜めたが、知事選は県内の有力者の主導権争いの舞台にもなってきた。 前回選挙に続き、服部氏の応援に駆けつけた麻生太郎元首相(84)=衆院福岡8区=は、服部氏を「県全体のことを考え、県を経営している。加えて(性格が)明るい」と手放しで称賛。服部氏の手堅い県政運営を評価しているとされるが、過去には、関係が悪化した前知事が3期目を目指した19年の知事選で、対立候補を擁立し保守分裂となったこともあった。 県内で主流派を構成する蔵内氏や麻生氏に対して距離を置く元衆院議員の武田良太氏(56)は、前回知事選で対立候補擁立を試みて断念し、今回は目立った動きはない。党派閥幹部や総務相などを務め、党内で力を付けてきたが、派閥の裏金事件の影響もあって24年の衆院選で議席を失い、巻き返しに専念する。武田氏の関係者は「服部氏とは関係がよいし、今回も支援している」とそっけない。 有力者の思惑も絡むなか、2期目のかじ取りを引き続き担うことになった服部氏。当選が確実となった23日夜、記者団の取材に「(県議会との関係で)疑念を持たれている方もいるだろうが、そういったことはない。仕事の進め方をもって理解をいただくしかない」と語った。【森永亨】