世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に東京地裁が下した解散命令は、法令違反を理由とするものとしては23年ぶり3件目となる。解散命令で法人格を剥奪された団体はその後、どのような経緯をたどることになるのか。過去に解散命令を受けたオウム真理教と明覚(みょうかく)寺(和歌山県)のケースから振り返る。 宗教法人法は、税制上の優遇措置などを受けている宗教法人について、法令に違反して、著しく公共の福祉を害する行為や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為などが認められた場合、所轄庁や検察官などの請求により裁判所が解散命令を出せると定めている。宗教団体は法人格を失って税制優遇が受けられなくなり、裁判所が選任した清算人が財産整理に入ることになる。 地下鉄サリン事件は1995年3月20日に発生。オウム真理教の信者が東京・霞ケ関駅へ向かう地下鉄車内で猛毒のサリンを散布し、14人が死亡、約6300人が負傷した。 教祖・麻原彰晃を名乗った松本智津夫元死刑囚が95年5月に逮捕された後、東京地検と東京都は「サリン製造の企て」が解散命令の要件を満たすと判断し、6月末に解散命令を東京地裁に請求。10月末に地裁が解散を命じた。 教団側の東京高裁への即時抗告、最高裁への特別抗告はいずれも棄却され、96年1月末に最終的な司法判断が確定した。 これ以前の宗教法人への解散命令は代表役員が死亡したり、1年以上不在となったりするなどの「休眠法人」に限られており、法令違反による「反公共性」を理由とした初めてのケースとなった。 ただ、解散命令により法人格を失っても、任意団体としての活動は認められている。 教団は2000年に「アレフ」に改称。「ひかりの輪」など計3団体の後継団体があり、アレフは24年10月時点で約1220人の信者や多額の財産を抱える最大規模の団体で、公安調査庁は今もなお松本元死刑囚の影響下にあるとみている。 公安審査委員会が23年3月、アレフに対し施設の使用禁止や布施などの金品受領の禁止など、活動を大幅に制約する再発防止処分を下したため、新たな信者獲得は限定的となっているが、被害者や遺族への賠償はいまだに道半ばだ。 一方、明覚寺は「霊視商法詐欺」が社会問題化した。1994~95年に僧侶らがチラシで勧誘した主婦らに「水子の霊がついている」「家族が不幸になる」などと脅し、多額の供養料などを支払わせた。 99年7月に最高幹部が和歌山地裁で実刑判決を受けた後、12月に文化庁が和歌山地裁に解散命令を請求。02年1月に解散が命じられた。 オウム真理教のケースと異なるのは、明覚寺側が解散命令請求に先立ち、施設の売却で捻出した資金で被害者への和解金計約11億円を支払っており、幹部の実刑判決で組織的活動はなくなったとみられる点だ。命令の前に、実質的な解散状態にあった。 明覚寺事件に先立つ92年には、同じ系列の宗教法人「本覚寺」(茨城県)で同様の霊視商法が社会問題化しており、その後、和歌山県で休眠状態にあった別法人の明覚寺が買収され、組織替えに悪用されたという経緯がある。 和歌山県総務課の担当者は「95年の宗教法人法改正を機に明覚寺の管轄は文化庁に渡ったため、資料もほとんど残っていない」とした上で、明覚寺のその後については「後継団体などの話は聞いたことがない。不活動宗教法人(休眠法人)が悪用されて第2、第3の明覚寺事件が起こらないよう、各法人の実地調査や責任者への周知活動を続けている」と話す。 宗教法人が引き起こした事件を巡ってはこのほか、主婦らに「足裏診断」を受けさせ「がんになっている」などと偽って「修行代」をだまし取るなどの巨額の詐欺事件を起こした法の華三法行(さんぽうぎょう)(静岡県)に対し、文化庁が解散命令請求を検討した。 ただ、01年に東京地裁が法の華に下した破産宣告が、宗教法人法で解散の理由に該当すると定められているため、請求を待たずに解散することとなった。 解散命令の意義はどこにあるのか。オウム真理教の信者に命を狙われた経験を持つ滝本太郎弁護士は、23年の毎日新聞のインタビューで「たとえ解散しても旧統一教会が団体として残るのは確実だが、これ以上の悲劇を生まない予防策になる」と語っている。 「最大の利点は、宗教法人としては解散させられることで『旧統一教会は日本では公益性のある宗教として認められていないんだ』と世間から認識される、いわば正当性の問題です。教団は勧誘活動がしづらくなり、新しい信者も入りにくくなる。今の信者も離れていきやすくなる」としている。【西本紗保美】