「やはり性癖というものが、ずっと頭のどこかに残っていました。仕事も順調で生活が安定してくると、どこかで刺激を求めて、そういうふうな行動(痴漢行為)を取ってしまいました」 埼京線内で痴漢行為を繰り返し、不同意わいせつなどの罪に問われている岩橋英治被告(62)の公判が、10月25日から東京地裁で開かれている。そのなかで岩橋被告は痴漢行為をやめられない理由をこう述べていた。 ◆新宿駅で線路内に飛び降りて逃走→逮捕 「岩橋被告は’24年7月22日、新宿駅でAさんへの痴漢行為をとがめられた際に線路内に飛び降り、逃走をはかったところを駅員に取り押さえられ、警視庁新宿署に威力業務妨害で逮捕されました。 その後の捜査のなかで、複数の痴漢行為が発覚。5月27日に埼京線内で当時18歳のBさんのスカートの中に手を入れて下半身を触ったとして不同意わいせつや威力業務妨害の疑いで8月12日に再逮捕されています。 岩橋被告は25歳くらいから痴漢行為を繰り返しており、’15年以降、同種のわいせつ事案で前科が4犯があります。’22年3月に強制わいせつの罪で懲役1年4ヵ月の判決を下され、’23年5月に出所したばかりでした」(全国紙社会部記者) 12月5日に開かれた第2回公判では、3人の女性に対する不同意わいせつや迷惑防止条例違反などについて審理された。起訴状などによると、まずCさんの被害は次のようなものだった。 ◆「カバンが当たっただけだろう」 「被告人は6月6日午前8時半ごろ、埼京線内で、当時23歳の女性Cさんのスカート内、さらには下着の中にまで手を入れて直接下半身を触りました。Cさんの前に座っていた男性が『痴漢してましたよね』と被告人の手をつかみ、『ごめんなさい』と謝る被告人とCさんとの3人で新宿駅で降りました。 その後、逃げようとした被告人を男性が『逃げるな』と取り押さえ、駆けつけた駅員に引き渡そうとしたところ、被告人は線路内に飛び降りて逃走したのです。これによって、埼京線と5路線の電車を緊急停止させるとともに、各路線の電車運行を遅延させました」(起訴状より) その1週間後、Dさんが被害に遭った。 「被告人は6月13日午前8時半ごろ、埼京線内で当時16歳の女性Dさんのスカートの中に手を入れ、下着の上から下半身を触りました。Dさんが『やめてください』と抗議すると、被告人は『カバンが当たっただけだろう』などと言い返しましたが、新宿駅でDさんが『この人、痴漢です』と大声を出すと、すぐに駅員が走ってきました。しかし、被告人は線路内に飛び降りて逃走しました。これによって、埼京線と7路線の電車を緊急停止させるとともに、各路線の電車運行を遅延させました」(同前) そして、先述のAさんへの痴漢行為で、岩橋被告はついに取り押さえられることとなった。 ◆「当たり行為」で事前確認 「被告人は7月22日午前9時ごろ、埼京線内で、当時20歳のAさんの下半身を着衣の上から触りました。Aさんは、『いまでも許せない気持ちと怒りでいっぱいで、厳重な処罰を求めます』と供述しています。 痴漢行為をとがめられた被告人は、線路内に飛び降りて逃走をはかりましたが、西武新宿駅付近で駅員に取り押さえられました。これによって、埼京線と5路線の電車を緊急停止させるとともに、各路線の電車運行を遅延させました」(起訴状より) 岩橋被告はCさんへの犯行だけは、「スカート内に手を入れたが、下着の上から触ったのであって、直接、肌には触れていません」と否認し、3件とも迷惑防止条例違反だと主張した。 通勤時間帯で混み合う埼京線池袋駅の上りホームで女性を物色し、同じ車両に乗り込んだあと、新宿駅までの間に『当たり行為』で反応を見てからスカートの中に手を入れる――これが岩橋被告の犯行パターンだ。 岩橋被告によると、『当たり行為』とは「電車の揺れに合わせて手の甲でスカートの上から太ももに触れ、その際の女性の反応を確認すること」で、女性が嫌がる素振りを見せればそれ以上のことはせず、反応がなければそのまま痴漢行為を続けたのだという。 そして痴漢行為をとがめられると、線路内に立ち入り、池袋方向に走って新宿大ガードから地上に飛び降りて逃げる。頭の中に逃走ルートが入っているため、躊躇なく飛び降りることができたのだという。公判では、岩橋被告を取り逃がしたJR東日本・職員の供述調書が検察官によって読み上げられた。 「犯人は現場から逃走してしまいましたが、これまで何回も同じように痴漢をしては線路内に逃げていると他の職員から聞きました。犯人については厳罰を望みます」 ◆「自分がされたことを他人にしてみたい」 ’25年2月12日に開かれた第3回公判では、被告人質問が行われた。 弁護人の「あなたが繰り返し痴漢をするようになったきっかけってあるんですか?」という質問に、岩橋被告は「私の幼少期の話をしてもよろしいでしょうか」と述べ、こう続けた。 「私が小学校の1年生くらいだった頃、見知らぬ男性に路地裏に連れて行かれ、陰茎を口に入れられるという性被害に遭いました。そのことがずっと頭の片隅にあり、忘れられませんでした。 自分がされたことを他人にしてみたい、したらどういう反応をするんだろうという興味がありました」 代わって検察官が質問に立ち、「犯行のときに、また刑務所に行くんじゃないかと考えなかったのか?」と質問すると、岩橋被告はこう答えた。 「出所してからは真っ当に生きようと、自分を抑制する方法をいろいろと考えました。ジムに通って筋トレをして、意識が痴漢行為に向かないようにしたり、風俗で解消したり。 しかし、やはりまた痴漢をしたいという気持ちが芽生えてしまうのです。痴漢をしているときは、捕まるという気持ちよりも、やりたい気持ちのほうが先行してしまいました」 そして、「今後は医療機関に通い、通勤時間帯の電車には乗らない」と約束した岩橋被告は、こう反省の弁を述べた。 「私自身、もう人生がそんなに残ってないというか、折り返しにきています。いつまでも、こんなことを続けていられない。周囲の人を絶対に裏切らないよう、努めて、生きていきたいと思っています」 その後、論告弁論が行われた。 検察官は、「不同意わいせつや迷惑防止条例違反については、自身をいっさい制御できていない点で獣のような犯行というほかありません。また、再犯の恐れも著しい。4件の威力業務妨害によって、毎回複数の路線が運休し、50本を超える電車に遅延が生じています。その経済的影響は計りしれません」と指摘。 「被告人を相当長期にわたって矯正施設に収容し、更生改善をはかる必要がある」として「懲役4年の実刑」を求刑した。 一方、弁護人は「Bさんに対しては不同意わいせつではなく、迷惑防止条例違反が成立する」として、「懲役1年6ヵ月に処するのが相当」と述べた。 そして3月14日――内山香奈裁判官は「懲役3年」を言い渡した。 公判で、岩橋被告は痴漢行為をする目的についてこう供述していた。 「被害者が嫌がる姿を見ることで、征服感を得ることです。そして最終的に、女性が感じている姿を見ることができれば、最高だと考えていました」 幼い頃に受けた性被害が、この征服欲とどこでつながったというのか。