韓国の憲法裁判所は1日、昨年12月に出した「非常戒厳」をめぐり国会から弾劾(だんがい)訴追された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を罷免(ひめん)するかどうかの判断を4日午前11時に示すと発表した。罷免されれば尹大統領は失職し、60日以内に大統領選が行われる。棄却されれば職務に復帰する。 憲法裁での弾劾審判は昨年12月27日から2月25日まで、2回の弁論準備手続きと11回の弁論が行われ、非常戒厳の宣布が違憲・違法だったかどうかをめぐり、野党議員らで構成する訴追団側と尹大統領側の主張が真っ向から対立した。 憲法は戦時やそれに準ずる国家非常事態の際に、非常戒厳を宣布できると定めているが、訴追団側は今回はこの要件を満たしておらず、憲政秩序を転覆する行為だったと指摘。尹大統領が国会に軍や警察を送って機能の「無力化」を図り、政治家らの逮捕も指示していたと主張した。 これに対し、尹大統領側は「巨大野党」による国政のまひを国民に知らせ、不正選挙の疑いを調べるためのものだったと主張。政治家らの逮捕指示も否定し、大統領の権限の範囲内だったとして棄却を求めた。 証人尋問では、当時の陸軍特殊戦司令官が、尹大統領から直接電話で「(国会の)中にいる人員を引きずり出せ」と指示されたと証言。大統領側は証言の信頼性に疑問を投げかけており、こうした証言などを憲法裁がどう判断するかなどが焦点となる。 憲法裁の裁判官は9人で構成されるが、現在は1人が欠員で8人体制になっており、このうち6人以上が賛成すれば罷免が決まる。 罷免されれば、現職の大統領としては2017年の朴槿恵(パククネ)氏に続いて2人目となる。盧武鉉(ノムヒョン)氏も現職大統領として04年に弾劾訴追されたが、憲法裁は違法行為があったと認めた一方で、罷免するほどの重大性はないとして棄却した。 盧氏、朴氏の場合は結審から約2週間後の金曜日に決定が出されたことなどから、韓国メディアは今回、3月14日の金曜日が最有力と報じていたが、それよりも時間がかかった。 世論調査機関・ギャラップが3月28日に発表した調査結果では、尹大統領の弾劾に賛成は60%、反対が34%。賛成が多数を占めているものの、朴氏が弾劾された時は世論調査で弾劾支持が7割を超えていた。 今回は反対の世論も一定程度あり、非常戒厳という事案の重さもあることから、憲法裁にはどう判断するにしても、より時間をかけて熟議したとの姿勢を示す狙いがあったとの見方も出ている。 弾劾訴追とは別に、尹大統領は内乱を首謀した罪で今年1月に逮捕・起訴されたが、裁判所が尹大統領側の勾留取り消し請求を認め、3月8日に52日ぶりに釈放された。弾劾審判の結果にかかわらず、在宅で刑事裁判に臨むことになる。(ソウル=貝瀬秋彦)