2023年度に性暴力で懲戒処分を受けた公立学校の教員は320人にのぼり、統計を開始した2011年度以降で最多となった。なぜ教員による子どもへの性暴力はなくならないのか。保育士資格と幼稚園教諭免許を持つジャーナリストの緒方健二さんは「かつて取材した、女児への性加害で摘発された男性教員は『そういう行為をしたいがために教員になった』と話し、強い憤りを感じた」という――。 ■子どもを取り巻く環境のひどさを実感 初めまして。66歳の前期高齢者です。元朝日新聞編集委員で、退職後に短期大学保育学科に入学、2024年に卒業して保育士資格と幼稚園教諭免許、こども音楽療育士資格を取りました。 出版社のご依頼でこの経緯を『事件記者、保育士になる』という本に綴ったところ、興味を持ってくださったプレジデントオンライン編集部のインタビューを受けました。辻村洋子さんの筆になる記事は「40年間“事件取材の鬼”だった62歳が新聞社を退職し『短大の保育学科に入りたい』と告げた時の妻の辛口対応」、「地下鉄サリン、警察庁長官銃撃…事件取材にあけくれた64歳の“セカンドライフ”は保育士か、幼稚園教諭か」というタイトルで配信されました。 その縁でこちらに寄稿することになりました。保育者の資格・免許を得たことで、子どもを取り巻く環境のひどさをこれまで以上に実感しています。40年近くの取材経験を生かしつつ、子どもと保護者が幸せに暮らせる社会のあり方をこの欄で考えてまいります。どうぞよろしくお願い申し上げます。 記者時代、1995年の東京・地下鉄サリン事件をはじめ数え切れないほどの殺人事件や経済事件を取材しました。子どもが被害者となる事件にも多数遭遇し、抵抗できないままに命を奪われたり、虐待や性被害を受けたりする実態を目の当たりにしました。 現在は朝日カルチャーセンターの事件講座で話したり、犯罪の取材・執筆をしたりしながら子どもを守るためにできることを模索しています。 ■子どもへの性暴力事件は過去最多 今回は子どもへの性暴力を取り上げます。 横行する実態を示す統計類には事欠きません。まずは警察庁の「令和6年版警察白書」です。 13歳未満の子どもが被害者となる刑法犯事件は2023年中に1万1953件ありました。前年より約2300件多い。 罪種別で最多は暴行の1292件で、傷害の1126件が続きます。ともに過去10年で最多です。殺人は43件、略取誘拐は204件でした。 性犯罪も深刻です。不同意性交239件、不同意わいせつ895件です。これに児童買春や児童ポルノなどの事件を加えると、被害に遭っている子どもの数は膨れ上がります。 被害を警察が把握しても加害者を摘発しなければ子どもの安全を守ることができません。 警察庁が2025年3月に公表した統計があります。それによると全国の警察は2024年、18歳未満の子どもが被害者となる性暴力について4850件を摘発しました。過去10年で最多です。不同意わいせつが2137件、不同意性交が1461件でした。ただ事件にできなかった事案も山ほどあります。これらの数字は氷山の一角と考えるべきでしょう。