GW中、酒気帯び運転による暴走事件が相次いだ。横須賀の信号無視による多重衝突の映像に恐怖を覚えた人も多いだろう。運転者が「危険運転」で厳罰に処せられるのは当然だが、飲酒運転と知りながら助手席に乗った同乗者の罪はどうなるのか? ノンフィクション作家の柳原三佳氏が、全国で初めて同乗者が「危険運転致死傷幇助(ほうじょ)罪」に問われ、実刑となった「埼玉熊谷9人死傷事件」を、遺族と共に振り返る。 (柳原 三佳・ノンフィクション作家) ■ 横須賀中央駅前で起こった酒気帯び運転による多重事故、直後に現場を立ち去った同乗者 まずはこの映像を見てください。5月5日の朝、神奈川県横須賀市で発生した乗用車による暴走多重衝突の瞬間です。 (外部リンク)【横須賀“暴走”】逮捕の男、市内で飲酒後に運転か(日テレNEWS 2025.5.7) 白いベンツが、赤信号にもかかわらず速度を上げながら横断歩道に突っ込んでいきます。次の瞬間、対向車に衝突したかと思うと、今度は前方のバスに激突。横断歩道を渡っていた歩行者は、まさにぎりぎりのタイミングで衝突を逃れましたが、一歩遅ければ大変な事態となっていました。 結果的にこのベンツは8台の車に衝突し、8人のけが人が出たそうです。映像には、歩道を歩く複数の歩行者の姿も見えます。死者が出なかったのは、まさに奇跡と言えるでしょう。 逮捕されたのは、大阪市の野中雅仁容疑者(31)。警察の調べによると、酒気帯び運転の基準値(0.15mg/L)の約3倍のアルコールが検出されたそうです。映像からは正常なハンドル操作ができていないことが見て取れます。 一方、本件でもうひとつ注目を集めたのは、同乗者の動向です。映像には衝突直後、助手席のドアを開け、一人の男が降りてくる様子が映っています。足を引きずりながら少し歩いた男はいったん歩道にしゃがみ込みますが、その後、いつの間にか姿を消したというのです。 この男が警察に出頭してきたのは、翌日の午後10時頃。報道によれば、横浜市に住む20代の男性で、「衝突した衝撃でパニックになった」と話していたそうです。 飲酒運転、しかも、赤信号無視で複数の車に次々と衝突し、他者に傷害を負わせる……、こうした行為が「危険運転致傷罪」として厳しく罰せられるのは当然です。 では、運転者の飲酒を認識しながら、その車の助手席に乗っていた者は、いったいどのような罪になるのか? ネット上では、同乗者の罪や責任についても数多くの疑問の声が上っていました。 実は、飲酒運転で人を死傷させた場合、同乗者も「危険運転致死傷幇助」という重い罪に問われることがあります。 私がかつて取材した、9人死傷の「危険運転致死傷罪」事件を振り返りながら、同乗者の刑事責任について考えたいと思います。