おととし10月、蕨市の郵便局に立てこもり警察官に拳銃を発砲し、女性局員2人を人質に取ったとして、殺人未遂などの罪に問われた男の裁判員裁判で、さいたま地裁は4日、懲役25年の求刑に対し、懲役24年を言い渡しました。事件とこれまでの裁判を振り返ります。 事件は、おととし10月31日午後2時15分ごろに発生。起訴状などによりますと、鈴木常雄被告が拳銃を持って蕨市の郵便局に立てこもり、女性局員2人を人質にとりました。 そして、鈴木被告は110番通報を受けて臨場した警察官などに対し発砲しました。 事件発生からおよそ8時間。午後10時20分ごろ警察が突入し、人質強要処罰法違反の疑いで緊急逮捕しました。 女性局員2人は、警察に保護されたり自力で逃げ出したりしましたが、心的外傷後ストレス障害=PTSDを負いました。 また立てこもり事件のおよそ1時間前には、戸田市の病院で、発砲事件が発生。窓ガラスや弾丸の破片でいずれも男性の医師と患者が頭にけがをしました。 事件後、鈴木被告は、刑事責任能力の有無を調べるおよそ3か月の鑑定留置を経て、殺人未遂や監禁致傷などの罪で起訴されました。 そして、5月26日に迎えた初公判。争点は「殺意の有無」です。 鈴木被告は、殺意について「そんな気持ちは一切ない」と述べ、起訴内容の一部を否認。 冒頭陳述で検察側は「病院や郵便局と依然トラブルがあり、報復を考えた」などと指摘しました。 その上で事件の3か月以上前からポリタンクやガソリンなどを準備していたと説明しました。 一方、弁護側は「発砲したとき、人を殺したいと全く思っていなかった」「腹いせに拳銃を使って驚かすのが目的」などと反論しました。 証拠調べは、2日間行われました。 1日目は、臨場した警察官らが証言台に立ちました。銃口が自分の方向を向いていたこと、発砲された銃弾が、近くを通過してゾッとしたことなど当時の状況を説明しました。 2日目は、被告人質問が行われました。鈴木被告は病院と郵便局で以前トラブルがあったことを前日に思い出し、「我慢出来なくて、事件を起こした」と話しました。 また、郵便局での発砲について「パトカーの上を狙って打った」と述べ、人は狙っておらず、脅かすためだったと説明しました。 検察側は、郵便局での発砲は警察官の間近を通過していることなどから、「人を殺傷する危険性を分かって発砲した」とし、鈴木被告に殺意があったと指摘し、懲役25年を求刑。 一方、弁護側は、発砲は脅かす目的で人を殺すつもりはなく、郵便局での発砲については「拳銃を撃ったとき、人がいない方を撃っている」と説明し、懲役9年が妥当と主張しました。 鈴木被告は最終意見陳述で「いろんな人に迷惑をかけて、非常に後悔している」と述べました。 4日の判決で、さいたま地裁の佐伯恒治裁判長は、鈴木被告は拳銃の殺傷能力を認識していたと指摘しました。 その上で至近距離から発砲し警察官の近くを弾丸が通過していたことから「致命傷を負わせる可能性が十分にあった」とし、殺意が認められるとして被告の主張を退けました。 そして「地域社会に大きな衝撃や不安を与えたことは明らか」「いずれの犯行も極端な自己中心性には強い驚きと恐怖を抱かざるを得ない」「刑事責任は誠に重い」などとして、懲役25年の求刑に対して、懲役24年の判決を言い渡しました。