英国発クライムドラマ「アドレセンス」が、Netflixの英語ドラマとして史上2位の視聴回数を正式に記録したと、米Deadlineが報じている。13歳の少年による殺人事件を描いた同作は、デジタル時代の子育てという現代的テーマで世界中の親世代に衝撃を与えている。 Netflixによると、「アドレセンス」は3月13日の配信開始から91日間の「プレミア期間内」に1億4120万回の視聴を達成し、「ストレンジャー・シングス 未知の世界4」を超えて史上2位となった。首位「ウェンズデー」(2億5200万回)には及ばないものの、エピソード数で大幅に劣るリミテッドシリーズがNetflixの看板作品を上回る異例の快挙となった。 「アドレセンス」が世界的話題となった背景には、現代社会が直面する深刻な問題への鋭い洞察がある。物語は13歳の少年ジェイミー・ミラーが同級生の女子生徒ケイティ・レナードを殺害した容疑で逮捕される事件を軸に展開する。しかし単なる犯罪ドラマではなく、事件の背景にインセル文化、マノスフィア、ミソジニーといった有害なオンラインコミュニティの影響を浮き彫りにしている。 作中では「赤い薬(レッドピル)」理論や「80対20の法則」といったマノスフィア特有の思想が、いかに13歳の少年の思考を歪めていったかが描かれる。これは近年英国で急増している若い男性による女性への刃物犯罪という現実問題を反映したものだ。 共同脚本・主演のスティーブン・グラハムは「ギャングや薬物に関するドラマではなく、普通の家族を見て『これは私たちにも起こりうる』と思ってもらいたかった」と語っている。実際、ミラー家は愛情に満ちた平凡な4人家族として描かれ、父エディ(グラハム)と母マンダ(クリスティーン・トレマルコ)が息子の思想的変化に気づけなかった現実が、デジタル時代の子育ての盲点を浮き彫りにする。 作品の技術的革新も大きな注目を集めた。フィリップ・バランティーニ監督は全4話をワンカット(一発撮り)で撮影し、視聴者をリアルタイムの緊迫感の中に引き込んだ。特に主演のオーウェン・クーパーは演技経験なしの13歳でありながら、500人の候補者から選ばれ、1話1時間のドラマを一発撮りで演じ切る驚異的な演技力を見せた。 この演技力と社会性が評価され、作品は米批評サイトRotten Tomatoesで批評家支持率99%を獲得。英ガーディアン紙は「過去数十年でテレビの完成形に最も近い作品」と絶賛し、米ローリングストーン誌は「今年のテレビ番組最有力候補」と評した。 社会的反響も大きく、英国のキア・スターマー首相は「父親として、10代の息子と娘と一緒に観るのは本当に辛かった」とコメントし、政府として専門性犯罪対策チームの設置などの具体的施策を表明した。アネリーゼ・ミッジリー国会議員の提案により、同作は英国の中等学校で無料視聴が可能となり、16歳未満のSNS利用禁止論への支持も拡大している。 「アドレセンス」は単なるエンタテインメントを超え、デジタル時代の子育てと若者の過激化という現代社会の緊急課題に光を当てた作品として、長く語り継がれる作品となりそうだ。