路上で詩を書く「路上詩人」 日5万円以上の売り上げも “営業”許可は必要なの?【弁護士が解説】

毎日遅くまで残業続きのAさんは、帰り道で通る駅前の通行人が多い一角で詩を書いている男性を見かけていました。歩道の端で2畳ほどのシートを広げ、大きな筆で色紙に言葉を書いています。そして完成した色紙を通行人に見せながら声をかけては500円から1000円ほどで販売しているのです。 Aさんは疲れた体を引きずりながら彼の横を通るたび、「自分は残業で疲れ果てているのに、路上で好きなことをして小銭を稼いでいるなんて、なんて気楽な生き方だろう」と複雑な気持ちを抱いていました。 ある夜、いつもより遅い時間に会社を出たAさんが駅前を通りかかると、その路上詩人が警察官と話し込んでいる場面に遭遇しました。警察官は何やら手帳を取り出して記録を取り、路上詩人は深々と頭を下げています。Aさんは少し距離を置いて様子を見ていました。 翌日も同じ場所に路上詩人の姿があり、変わらず詩を書いて販売していました。どうやら前日は注意だけで済んだようです。ただ、路上を使用するには許可が必要であるはずなのに、簡単に再開できたのはなぜだろうかとAさんは疑問を抱きます。 興味を持ったAさんは、休日に路上詩人に話しかけてみました。すると彼は、実は「路上詩人」として10年以上活動しており、全国各地で書き下ろしのパフォーマンスをおこなっていると教えてくれました。驚いたことに、彼の一日の売上は多い日で5万円を超えることもあるのだそうです。ただ道路使用許可はいちいちとっていないとも言っていました。 路上詩人の話を聞いてAさんは憤慨しました。無許可で道路を使っておきながら「そんなに稼いでいるなんて!」と怒り心頭です。この路上詩人に何かしらの罰則はないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。 ー路上詩人は一般的に道路使用許可を得て活動しているのでしょうか 多くの路上詩人が許可を得て活動しているかどうかは、統計がないため不明です。とはいえ道路使用許可を得るには手続きだけでなく手数料が約2000円必要なため、適切な許可を得ないで活動している人も少なくないでしょう。 ー路上詩人は取り締まられないのでしょうか 取り締まられる可能性があります。通常、道路を使用する場合は、道路交通法第77条1項により、警察署長の許可が必要です。また地域によっては条例に基づく許可が必要な場合もあります。 この路上詩人のように許可なく道路を占拠しているとみなされた場合、道路交通法や道路交通規則に違反していると判断されるでしょう。 その他に、例えば数日続けてのように道路を継続的に使用する場合は、、その道路を管理している自治体などから「道路占用許可」が必要です。ただ路上詩人の場合は数時間の使用なので、道路占用許可を取る必要はないと考えます。 ー実際に取り締まられた事例はありますか いきなり逮捕されるケースはほとんどなく、最初は「使用をやめるように」と注意を受けることが多いようです。路上詩人が警察と会話をしていたというのは、この注意の段階だったのではないでしょうか。 注意を聞かずに無断使用を繰り返していると、逮捕される可能性があります。実際に、2024年には新宿駅近くで許可なくライブを繰り返していたとして、女性アイドルグループのメンバーたちが書類送検される事態が発生しています。 ーどのようなペナルティを受けるのでしょうか もし有罪が確定すれば、道路交通法第119条2の定めに従い、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。刑事罰以外にも摘発されたことがニュースなどで知れ渡ると、イメージの失墜など社会的評価への影響も及ぼすかもしれません。 近年ではSNSの投稿から不法行為が指摘される場合も出てきています。この路上詩人が今後も活動を続けるのであれば、適切に使用許可をとることをおすすめします。 ◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。 (まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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