遺族「米兵が守られすぎている」 日米地位協定の壁 在日米兵の交通死亡事故

■2等兵曹に言い渡された執行猶予付き判決 今年5月27日、横浜地裁横須賀支部。 在日米軍横須賀基地に所属する2等兵曹の男性(22)に、判決が言い渡された。 2等兵曹は去年9月、神奈川県・横須賀市の国道で、車を運転中に右折が禁止されている交差点を右折し、対向車線のバイクと衝突。バイクを運転していた会社員の伊藤翼さん(当時22)を死亡させた過失運転致死の罪に問われていた。 検察側の求刑は禁錮1年6か月。遺族は実刑を求めていた。 2等兵曹に言い渡された判決は、執行猶予4年が付いた禁錮1年6か月だった。 この事故の取材を通じ、日米地位協定の様々な問題点が浮き彫りになった。 ■法廷内に米軍法務官 在日米兵の刑事裁判の法廷は、一般的な裁判とは異なる。 裁判では証言台の後ろに、在日米軍の法務官らのための長いすと机が用意されていた。その理由は日米地位協定17条で、「合衆国政府の代表者を裁判に立ち会わせる権利」が保証されているためだ。 スーツ姿の法務官の男性が入廷した。法務官は、500mlのミネラルウォーターが入ったコンビニの袋だけを持っていた。被害者代理人による意見陳述の際には、右肘を長いすの背もたれに置きながら聞いていたが、遺族による被告人質問などはしっかりとメモを取っていた。 検察側が最初に請求した証拠は、一般的な裁判では存在しない文書だった。 それは、検察官が米軍側に対し、2等兵曹に裁判権を行使する(=起訴する)旨を伝えたとする通知書だった。日米両政府の合意では、検察官は米軍側に対し、容疑者が勾留されていない在宅事件でも、書類送致されてから20日以内に裁判権を行使するか否か、通知する必要があるからだ。 通常、在宅事件の場合は、書類送致後に検察官が起訴か不起訴かを判断するまでの期限は決められていない。 検察側が手続きを正しく行っていることを立証する必要があり、通知書を証拠として請求したとみられる。 ■「事故後も週に4回程度、運転している」 2等兵曹は弁護側の被告人質問で「事故などを起こすと、憲兵隊を呼ぶよう指示されていて、事故直後に憲兵隊を呼んだ」と証言した。また、我々の取材などから、2等兵曹が110番や119番通報をしていなかったことも明らかになっている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加