カナダ西部カナナスキスで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)に出席した米国のドナルド・トランプ大統領は、ロシアをG7に復帰させ、中国も新たに迎え入れることを提案し、物議を醸した。この提案は戦略的に間違っており、道義的にも擁護できないとして、出席者の強い反発を招いた。 敵対する国家を関与させるか孤立させるかという議論は長い間、外交論を二分してきた。トランプ大統領は2つの独裁主義的な超大国を民主主義国家の同盟であるG7に迎え入れようと呼びかけており、それが現実のものとなれば、G7の道義的な権威だけでなく、存在意義も損なわれる危険性がある。 ■ロシアはなぜG7から追放されたのか 2014年にロシアが当時のG8から除外されたのは、単なる政治的な気まぐれなどではなかった。その理由は、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島の併合と同国東部への軍事介入に対する反発だった。同年にロシア南部ソチで予定されていたG8サミットは中止となり、当時のスティーブン・ハーパー首相率いるカナダを含む参加国はロシア抜きで会合を開き、再びG7として出直すこととなった。ロシアが復帰するには国際法の順守が条件とされたが、同国はこれを無視し続けている。 一方、トランプ大統領は、ロシアが排除されたことで「取り残されたと感じ」、さらなる侵略を誘発する可能性があると主張しているが、これは論理も歴史的事実も逆転している。実際は、ロシアを排除したことが侵略を促したのではなく、同国の侵略が排除につながったのだ。 さらに、トランプ大統領がロシアの追放を米国のバラク・オバマ元大統領とカナダのジャスティン・トルドー前首相のせいだとしたのは誤りだ。当時のカナダはハーパー政権で、トルドー前首相はまだ政権に就いていなかった。これはトランプ大統領の記憶力の悪さを浮き彫りにしただけで、同大統領の提案には外交的な根拠がないことが示された。 同大統領の記憶からは、ソビエト連邦から独立したウクライナが1994年に核兵器を放棄した際、米国が引き受けた義務も抜け落ちているように思える。米国、英国、ロシアはブダペスト覚書に署名し、ウクライナが世界第3位の核兵器備蓄を放棄するのと引き換えに、同国の領土と主権を保証した。 今日でもG7の総意は明確だ。ロシアが除外されたのは悪意からではなく、同国が国際法に違反したためだ。責任の追及なしにロシアを復帰させても、さらなる侵略を抑止するどころか、むしろ侵略を助長することは明白だ。