「目撃証言が崩れた」 20年前の質店経営者強盗殺人事件 無期懲役の受刑者が再審請求

神戸市中央区の質店で平成17年、経営者の男性=当時(66)=を殺害したとして、強盗殺人罪で無期懲役が確定した緒方秀彦受刑者(66)が26日、大阪高裁に再審請求を申し立てた。事件の直接証拠がなく、受刑者は逮捕から一貫して無実を主張。弁護団は「新証拠」によって、有罪の根拠となった目撃証言が揺らぐと訴える。 事件は17年10月18日夜に発生。被害男性は翌朝、質店内の居室のベッドの上で、頭部を鈍器で多数回殴られ死亡しているのが見つかった。1万円ほどとみられる所持金はなくなっていたが、開いたままの金庫内の貴金属類は残されていた。 確定判決によると、店内から受刑者の指紋や足跡が見つかったほか、灰皿には受刑者と同じ血液型のたばこの吸い殻が12本残され、うち4本からは受刑者のDNA型が検出された。 これに加え、事件発生時間帯に通行人の男性が、現場マンション前で「目つきが鋭い不審な男を見た」と証言。男性には事件から2年近くがたった19年8月、20枚の写真から目撃した男を選ぶ「面割り」が行われ、受刑者を選択、受刑者は翌月、逮捕された。 一方、受刑者は1審神戸地裁の公判で、事件当日に面識のない被害男性から声をかけられ、質店内で防犯カメラ設置に関する相談に乗り、一緒に飲食したり、たばこを吸ったりしたことがあった-と説明。地裁は20年6月、目撃証人の信用性に疑問があると指摘し、「犯行に関与したと推認できない」として無罪を言い渡した。 しかし、大阪高裁は翌21年9月、「見ず知らずの人に相談するとは考えにくい」と指摘。目撃証言の信用性も認め、1審判決を破棄し、無期懲役を言い渡し、最高裁で確定した。 再審請求で弁護団は目撃証人は当時61歳と高齢で、飲酒後、薄暗い中で「一瞬見た」男の記憶を2年近く保っていたとは考えがたいと指摘。警察の面割り手法に誘導があったなどとする心理学者の意見書を「新証拠」として提出した。記憶の不確かさを証明する目撃状況の再現実験結果も合わせ、「目撃証言の信用性が低い以上、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じており、再審を開始すべき」と主張する。 さらに弁護団は、現場全体の指紋採取状況や付近の防犯カメラの捜査状況などは証拠提出されておらず、捜査機関が保管しているとみられるこうした証拠の開示を求める方針。

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