韓国最大のソーシャルメディア「カカオトーク」を運営するカカオは2月4日、ソウルで開かれた記者会見で米OpenAIとの提携を発表した。時価総額が約200億ドル(約2兆9000億円。1ドル=146円換算)の同社は、6カ月に及ぶ交渉の末に米国の人工知能(AI)大手が誇る先端テクノロジーへのアクセスを獲得した。カカオのチョン・シンアCEOは、「想像しうるすべてのAI時代のサービスを現実のものにする」と語った。 ■AIを広範なサービスで利用可能にするため、カカオトークの大規模な刷新を準備 カカオが運営するカカオトークは、韓国の人口94%にあたる4900万人が利用している。OpenAIのテクノロジーを用いることで、同社は個々のユーザー向けにパーソナライズされたサービスを始動する計画だ。また同社は、次世代のバーチャルアシスタント「AIエージェント」の立ち上げを11月に予定している。 「韓国のシリコンバレー」と呼ばれるソウル南部の板橋(パンギョ)にあるカカオ本社で取材に応じたチョンは、「私たちは、AI分野をパフォーマンスとイノベーションの両面でリードするパートナーを求めていた」と語った。彼女はまた、OpenAIとカカオが同じ哲学を共有していると付け加えた。 OpenAIとの提携は、カカオと同社初の女性CEOであるチョンにとって、大きな飛躍のチャンスになりそうだ。昨年3月カカオCEOに就任したチョンが抱える最大の課題は、同社の15年の歴史において最長となっている、売上低迷期からの脱却だ。フォーブスアジアが傑出した女性リーダーを選出する「アジアの女性リーダー 2024年版」にも選ばれた50歳のチョンは、AIへの注力が今後の成長の起爆剤になると考えている。「私たちは今、AIを広範なサービスで利用可能にするためのカカオトークの大規模な刷新の準備を進めている」と彼女は語った。 この提携は両社のメリットとなるもので、OpenAIは世界でも屈指のテクノロジー先進国である韓国市場へのアクセスを得ることで、グローバル展開をさらに加速させるチャンスになる。韓国は、ChatGPTの有料ユーザー数が米国に次いで多い国だとされている。OpenAIの最高プロダクト責任者ケビン・ワイルは、「我々は、自社の先進的なAIをカカオの数千万人のユーザーに届け、人々のつながり方を革新するサービスに当社の技術を統合できるよう協力することにエキサイトしている」と語った。 一方チョンとの記者会見前日、OpenAIのアルトマンCEOはソフトバンクグループ創業者の孫正義と共に日本企業向けAIサービスを提供する合弁事業の立ち上げを東京で発表していた。ソフトバンクは最近、OpenAIの400億ドル(約5兆8400億円)規模の資金調達ラウンドを主導しており、両社は米国にAIデータセンターを建設するための総額5000億ドル(約73兆円)規模の「スターゲート計画」にも参画している。 ■AIで「2桁台の売上成長」目指す その一方でカカオは今、重大な転換点を迎えている。同社の事業は韓国市場への依存度が高く、サムスンや現代(ヒュンダイ)といった大手が、グローバル市場での成長に期待を寄せているのとは対照的だ。さらにその韓国の国内総生産(GDP)は、世界の貿易戦争への懸念や消費の低迷、政局不安などを背景に第1四半期に0.2%縮小した。 しかし、2024年のカカオの純損失は、前年の1兆8200億ウォン(約2002億円。1ウォン=0.11円換算)から1619億ウォン(約178億900万円)へと大幅に縮小し、売上高は前年比4%増の7兆8700億ウォン(約8657億円)を記録した。AIをオペレーションとサービスの中核に据える企業への転換を目指すカカオは、OpenAIとの提携が今後2年以内に2桁台の売上成長につながる可能性があると考えている。 ■AIデータセンターを建設するため約660億円を投じる 2024年の売上高が10兆7300億ウォン(約1兆1803億円)の韓国最大のインターネット企業であるネイバーを競合に見据えるカカオCEOのチョンは、急速に進化するAI技術を、メッセージングやネット銀行、音楽配信、タクシーの配車などの多岐にわたるサービスに、迅速かつ深く組み込んでいく必要がある。 ソンナム市に本社を置くネイバーは、2023年に韓国語と韓国文化に特化した大規模言語モデル(LLM)「ハイパークローバーX(HyperClova X)」を発表しており、AI競争ではカカオより一歩先を行っていると広く考えられている。さらに、急成長しているAIネイティブの地元発スタートアップ群も存在する。 この点についても、カカオのチョンはすでにこの分野の基盤の整備に着手している。6月中旬、同社はソウルから約25キロに位置する南楊州市に9万2000平方メートルのAIデータセンターを建設するために6000億ウォン(約660億円)を投じると発表した。この施設は、昨年開設したデータ容量60億ギガバイトの安山市のデータセンターに続く2拠点目となり、2026年に着工し、2029年の開業を予定している。