【解説】 ガザでの物資供給、イスラエルが対応策発表 飢餓に対処していると友好国にアピールか

ジェレミー・ボウエンBBC国際編集長 パレスチナ・ガザ地区における飢餓をめぐり、イスラエルにその責任を問う国際的な非難が高まっている。こうした状況を受け、イスラエル国防軍(IDF)は、「人道的対応を改善する」ためだとする、一連の措置を発表した。 この措置は、ガザに物資を空輸・投下することを許可するもの。イスラエル軍自らが、26日夜に最初の物資投下を実施し、27日にはアラブ首長国連邦(UAE)空軍による追加の物資投下を認めた。 IDFはさらに、ガザの一部地域で「軍事活動の戦略的な一時的停止」を行うと発表。ガザで「意図的な飢餓を引き起こしているとする虚偽の主張を否定するために(中略)人道回廊」を設置することも明らかにした。 イスラム組織ハマスは、これらの動きは「欺瞞(ぎまん)」だと非難。イスラエルが「世界に対し、自国のイメージを美化しようとしている」とした。 イスラエルは、軍事活動の「戦術的な一時停止」の発効後にガザを空爆した。現場からの複数報告によると、この攻撃で、ワファ・ハララという名の母親と、サラ、アリージュ、ジュディ、イヤドという名の4人の子供が殺害された。 イスラエルは、自国にはガザの人道危機に対する責任はなく、援助物資の搬入に制限を設けていないと主張し続けている。しかし、欧州の主要な同盟国や国連、ガザで活動する援助機関は、こうした主張を受け入れていない。 今回の新しい措置は、イスラエルが今以上の対応を取る必要があることを暗に認めたものと受け取れなくもない。 しかしそれ以上に、ガザでの飢餓の責任はイスラエルにあると非難する強い声明を出した友好国に向けた、アピールである可能性が高い。イスラエルは、ガザの飢餓問題に対応していると見せかけるために。 25日に、イギリス、フランス、ドイツが連名で発表した最新の声明は、厳しいものだった。 「我々はイスラエル政府に対し、(ガザへの)援助物資の流入に対する制限を直ちに解除し、国連および人道支援を行うNGOによる飢餓対策の活動を緊急に許可するよう強く求める。イスラエルは、国際人道法上の義務を順守しなければならない」 イスラエルは、ガザへの援助の流入を全面的に封鎖し、物資の中身や、援助の車列の移動をめぐる承認に制限を設けた。また、ガザにおける国連主導の物資配給ネットワークにとって代わる、「ガザ人道財団(GHF)」による新しい支援システムを、アメリカと共同で構築した。イスラエルは、ハマスが国連の配給システムから物資を奪っていたと主張している。国連側は、その主張を裏付ける証拠をイスラエルが提示するのをまだ待っているのだと言う。 国連やほかの団体は、GHFの仕組みは非人道的かつ軍事化されているとして、GHFには協力しないとしている。国連によると、GHFを通じた物資配給が始まって以来、食料を確保しようと配給拠点へ出向いたパレスチナ人1000人以上が射殺されている。 GHFをめぐっては、GHFの配給所で契約警備員として働いていたという米軍特殊部隊の退役将校が、IDF兵が民間人に向けて発砲するのを目撃したと、BBCに証言している。GHFを支援するアメリカとイスラエルは、民間人を標的にしている事実はないと否定している。 国連の人道問題調整事務所(OCHA)のパレスチナ被占領地域担当責任者ジョナサン・ウィットル氏は、以前から、GHFの手法を非難している。 ウィットル氏は1カ月前、GHFのシステムはガザに「殺すための状況」をもたらした、「我々が目にしているのは虐殺だ。飢えを武器として利用し、移住を強制している。ただ生き延びようとしている人々への、死刑宣告だ。まるでパレスチナ人の命を消し去ろうとしているようだ」とソーシャルメディアに投稿した。するとその後、イスラエルはウィットル氏のビザ(査証)更新を拒否すると通知した。 イスラエルが新たな措置を発表すると、ウィットル氏は「ガザの人道状況はかつてないほど最悪だ」とBBCに話した。 ウィットル氏は、イスラエルの新しい措置でガザの状況を改善するには、輸送トラックにガザ境界検問所の通過許可を出すまでにかかる時間を短縮し、IDFが指定する車列の移動ルートの状況を改善する必要があると指摘した。 また、イスラエルは「トラックの荷台から食料を確保しようと集まった人々が、イスラエル部隊に射殺されることはないという、意味のある保証」を提供する必要があるとも、ウィットル氏は述べた。 ウィットル氏はガザで戦争が始まって以来、ガザを何度も出入りしてきた。しかし、イスラエルがビザの更新取り消しを撤回しない限り、ウィットル氏はガザに入れなくなる。同氏は、IDFの軍事作戦が継続される中、「忌まわしい人道法違反」が続いていると指摘する。 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアヴ・ガラント前国防相は昨年11月、ガザでの戦闘をめぐる戦争犯罪などの疑いで、国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出された。 ICCは逮捕状発行にあたり、ネタニヤフ首相とガラント前国防相について、それぞれが「以下の犯罪を共謀したことについて刑事責任を負う」と考える「合理的根拠」があるとし、「以下の犯罪」として「戦争の手段として飢餓をもたらした戦争犯罪」ならびに「殺人、迫害、その他の非人道的行動という人道に対する罪」を挙げた。 ネタニヤフ氏とガラント氏およびイスラエル政府は、こうした疑いを否定している。 イスラエルは、輸送機が夜間に、ガザに援助物資を投下している様子をとらえた、低画質の動画を公開した。暗闇の中、機体の後部からパラシュートが列をなして降下し、膨らむのがわかる。IDFは小麦粉や砂糖、缶詰を含む7つの物資パッケージを届けたとしている。 ■物資投下は「最後の手段」 私はほかの紛争地でも、物資が投下される様子を輸送機内から、あるいは物資が地面に落ちるのをすぐそばから見たことがある。 物資投下は、必死の行動だ。テレビ映えするし、少なくとも何か対策がついにとられているという安心感を広める。 しかし実際は、粗雑なプロセスだ。物資投下だけでは、ガザでの飢餓を終わらせる効果はほとんどない。飢餓の解決策は、停戦と、制限のない長期的な援助活動だけだ。大型輸送機でさえ、小規模なトラックの車列ほどの物資を運ぶことはできない。 1991年の湾岸戦争後のイラク・クルディスタン地域でも、アメリカやイギリスなどがC-130輸送機から援助物資を投下した。中身は主に軍用食や寝袋、冬用の予備制服だった。トルコ国境付近の標高の高い山岳地帯で、泥や雪にまみれながら、屋外で生き延びようとする数万人に向けられたものだった。私はこの輸送機に同乗し、アメリカやイギリスの空軍兵が数千フィート上空から物資を投下する様子を見た。 当初は歓迎されていた。しかし数日後、山中に急ぎ設置された野営地にたどり着いた私は、物資を確保しようと、物資が落下した地雷原に若者たちが駆け込むのを目にした。爆発で死亡した人や、負傷した人もいた。重たいパレットがテントに落下し、複数の家族が亡くなるのを、私は目の当たりにした。 1993年のボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争で南部モスタルが包囲された際には、調理不要な米軍食のパレットが高高度から投下され、砲撃が続く街の東側に散乱するのを見た。一部のパレットは、砲撃を奇跡的に免れていた家屋の屋根を突き破った。 救援活動に従事してきた専門家たちは、物資投下は「最後の手段」と捉えている。ほかのアクセス手段が断たれている場合にだけ用いる手段だという。しかし、ガザの場合、物資を配る手段がほかにないわけではない。車で少し北上した場所には、イスラエル南部の港湾都市アシュドドがある。ここには近代的なコンテナ港がある。車で数時間の場所にはヨルダン国境があり、これまでもガザへの援助物資の供給ルートとして定期的に使われてきた。 開戦前のガザは、世界で最も人口密度が高い場所の一つだった。200万人を超えるパレスチナ人住民は、ガザ全域を移動することができた。ガザはイギリスのワイト島よりやや狭く、アメリカの都市フィラデルフィアやデトロイトと同じくらいの面積がある。 現在ではイスラエルが、ガザ住民の大半を南部の海岸沿いのわずかな範囲に押し込めている。その面積は、ガザの全面積の約17%にすぎない。こうした住民のほとんどは、大勢が密集するテントで生活している。輸送機が物資を投下できる開けた場所があるのかどうかさえ、分からない場所だ。 援助物資が載ったパレットは多くの場合、支援を必要とする人々がいる場所から遠く離れたところに、パラシュートで投下される。 そして、家族のために必死に食料を確保しようとしている男性たちや、物資を売ってもうけようとする犯罪集団が、物資が載ったパレットを奪い合うことになる。 (英語記事 Bowen: Israel's aid measures a gesture to allies horrified by Gaza starvation)

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