日本でも学歴は人生を左右する要素の一つだが、韓国の受験の過熱ぶりは尋常ではない。時として国を揺るがす大きな社会問題に発展する――。 韓国東部・慶尚北道安東(アンドン)市の高校で、前代未聞の不正事件が起きた。7月23日に安東警察署から住居侵入や窃盗などの疑いで送検されたのは、同校に通っていた女子高生A(3年)の母親B(40代)と非常勤教師C(30代)だ。Aは’23年3月の入学直後から2年半にわたり、全教科でほぼ100点の成績で常に学年トップを維持。だが高い内申点を誇っていた彼女の“秀才”ぶりは、不正の積み重ねによるものだったようだ。 「CはAが入学した当時の担任教師でした。母親のBとは入学前から親交があったとか。Cは同校の正式な教師だった’24年2月まで、定期テストの問題用紙を不正に入手し事前にBへ渡していたそうです。’24年3月以降、非常勤教師となってからはBとともに学校へ無断侵入。試験問題を盗んだり、スマートフォンで撮影したといわれます。 警察発表によると、CはBから総額2000万ウォン(約210万円)を受け取っていたそうです。これまでに問題用紙を不正に入手したのは10回以上にのぼり、毎回の謝礼は数百万ウォンだったとか。Aは事前に試験問題を解き解答を覚え、毎回のテストに臨みほぼ満点の成績を残していたとされます」(韓国紙記者) 不正は意外な形で発覚する。BとCは今年7月4日深夜1時過ぎ、いつも通りパスワードなどを入力し学校内へ侵入。しかし問題用紙が保管されている部屋に入ると、システムの誤作動のため非常ベルが鳴り警備員に身柄を拘束されたのだ。 「BとCが身柄を拘束された当日に行われた数学のテストで、Aの点数は40点だったそうです。母親や元担任教師が逮捕されてからAは退学処分に。それまで学年トップだった全テストの成績は、すべて0点となりました」(同前) ◆「大学により人生が決まる」 今回の事件は、単に一人の女子高生の家族と教師が起こしたトラブルに収まらない。韓国社会のあり方が問われる大きな問題なのだ。朝鮮半島情勢に詳しい『コリア・レポート』編集長の辺真一氏が解説する。 「韓国では、進学する大学により人生が決まると言っても過言ではありません。一流企業や官庁では、有名大学による学閥の力が非常に強いんです。そのため受験が過熱し、子どもや親たちは必死になります。より良い高校に通い深夜まで塾で勉強する毎日。莫大なカネがかかるため、裕福な家庭でなければ勝ち抜けません。退学となったAも親族に医師が多くいるエリート一家に育ち、自身も医学部を目指していたといわれます。 韓国の大学入試は以前、ほぼ学力テストだけで決まっていましたが『一発勝負で判定されるのはおかしい』という批判が高まり近年は高校3年間の内申点が重視される傾向に。教師や親が結託し、SNS上に定期テストの問題を流出させるなどのトラブルが多発しているんです。今回の問題不正入手疑惑は氷山の一角でしょう。韓国社会の学歴偏重を根本的に変えない限り、同様の事件はなくならないと思います」 韓国の国家監査院によると、過去6年間で公立、私立問わず約250人の教師が試験問題を不正に流出させていたとされる。