世界で広がるAI生成の“情報汚染”…注目集める韓国発「判別と遮断」の技術

【08月28日 KOREA WAVE】生成AIで粗悪コンテンツを量産・拡散し、広告収益を得る「AIスロップ」。識別が困難なほど精巧に生成された偽の災害映像や、政治家のディープフェイク、刺激的なクリックを誘導するコンテンツが横行し、世界的な脅威になっている。 韓国は国別「クリエイター集中度(人口比のクリエイター比率)」が34%で、世界で最も高いブラジルに次いで2位。コンテンツ生産が活発であるだけに、AIスロップを楽観視できない。AI著作権などで問題となった「ジブリ」のある日本も例外ではない。総務省の調査によると、日本の広告主の30.1%がブランドセーフティに関連する被害を経験したと回答している。 こうしたなか、総務省は2025年6月、「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を発表した。これは2026年の本格施行を前に▽ブランド価値の毀損▽広告詐欺(Ad fraud) ▽デジタルエコシステムの不健全化――などの重要な問題を指摘している。ガイドラインによると、91.8%にのぼる利用者が偽情報にさらされた広告に対して否定的な印象を持つと答えた。 しかし、高度化した映像分析技術がなければ、ブランドセーフティの確保は事実上不可能だと業界は見る。現時点で映像コンテンツは、世界中のブランドやクリエイターが注力している分野だ。実際、GoogleはYouTube20周年を記念するレポートで、1日に約2000万件の動画がアップロードされているという統計を報告した。 これに対してグローバルプラットフォーム各社もAIスロップへの対応に乗り出している。YouTubeは機能の抜け穴を狙った「繰り返しコンテンツ」の収益化を制限し、Metaは低品質コンテンツ拡散を防止するためのポリシーを導入した。PinterestはAI生成画像に対する専用の表記機能を提供し、WikipediaはAI生成コンテンツに対して「即時削除」ポリシーを導入した。 プラットフォームが自主規制で対応する中、日本は国家レベルでのアプローチを選択した。品質管理に厳しい日本特有の風潮に従い、総務省は市場の変化に応えるガイドラインを提示した。これにより、日本国内の広告会社も積極的な対応を取っている。電通は、自社の広告ソリューションに「Web/App Unsafe List」ブロックリストを適用し、リスクのあるコンテンツの遮断を強化している。博報堂はデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の認証取得とともに、広告検証(ad verification)ツールの活用方針を強調している。 しかし業界内では依然として、AIと映像理解に基づいた、コンテンツ選別に特化した技術的な解決策が存在しないことへの懸念が示されている。従来のドメインブロック方式は、テキストや画像ベースのコンテンツにはある程度効果があったが、容量・長さ・変形の可能性が高いAI映像コンテンツには実質的に無力であるという指摘だ。実際、広告主は数万から数千万本に及ぶ動画に広告を掲載しているものの、それぞれの文脈やリスク要素を確認する手段が存在しないのが現状だ。 こうした構造的な問題を解決するための技術的アプローチが業界全体で議論される中、トラスト&セーフティ(Trust & Safety)分野のイノベーションが注目を集めている。現在、T&S市場をリードしている「DoubleVerify」や「IAS」は、ドメイン遮断やテキストベースのフィルタリングによりデジタル広告の安全性を大きく向上させた。しかし、1日に2000万本がアップロードされる映像コンテンツ時代には新たなアプローチが必要だという声が高まっている。 こうした認識は、T&S分野の代表的なイベント「TrustCon 2025」でも確認された。AIスロップの判別と遮断のための技術的解決策が急務であるという共通認識が形成される中、映像理解AI技術を紹介した韓国のスタートアップ「Pyler(パイラー)」も現地で大きな注目を集めた。 Pylerは視覚・音声・テキストデータを統合・分析して映像の文脈を理解する技術を紹介した。映像を学習したAIが視覚・音声・テキストを統合・分析し、リアルタイムでコンテンツの安全性を判断、広告主の基準に合った安全なコンテンツ環境を運用するのが特徴だ。サムスン電子・現代自動車・LG電子など25のグローバル企業がこの技術を導入しており、NVIDIAインセプションプログラムを通じた未公開技術およびインフラの支援も受けている。 技術の導入を求める声が高まる中で、広告業界が既存のインフラを活用しつつ、新たな映像分析技術をどのように適用していくかが、世界のTrust & Safety対応において示唆を与えるものとなりそうだ。 ある業界関係者は「ブランドセーフティの確保は、単なるマーケティング戦略ではなく、企業の信頼と持続可能性を左右する重要な要素だ。特に映像コンテンツが主流となる時代では、Trust & Safetyの観点からの技術的アプローチがブランド価値保護の鍵になるだろう」と語った。 (c)KOREA WAVE/AFPBB News

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