英控訴院、難民申請者のホテル収容を許可 仮差し止め命令に「重大な欠陥」と

イギリスの控訴院は29日、イングランド東部エセックス州にあるホテルでの難民受け入れについて、受け入れに対する仮差し止め命令を覆す判断を下した。 一審の高等法院は19日に、エセックス・エッピングにある「ベル・ホテル」に滞在する難民資格申請者138人を9月12日までに退去させるよう命令した。これに対し、ホテル側とイギリス政府が控訴していた。 控訴審で命令を覆したビーン判事は、高等法院の判断には「原則的に重大な欠陥がある」と述べた。 一方、ホテルを提訴し仮差し止め命令を獲得していたエッピング・フォレスト地区の自治体は、ベル・ホテルに関する訴訟を最高裁判所に持ち込む可能性があり得るとコメントした。 内務省は、エッピングに関する高等法院判決を前例として、複数の自治体が難民受け入れ施設としてのホテル使用に反対し、同様に提訴する事態に備えていた。 しかしビーン判事は、高等法院のエアー判事による判決は、難民の移転に伴う課題を考慮していないと指摘した。 ビーン判事は控訴院の判事3人による判決文を読みあげる中で、「(エアー)判事の判断は、1カ所の施設を閉鎖すれば、収容能力を別の場所で確保しなくてはならないという明白な影響を無視している」と述べた。 ベル・ホテルに対する恒久的な差し止め命令の是非については、高等法院が10月中旬にも判事全員で審理する見通し。 今回の控訴裁判決を受け、最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、「この判断は、不法移民の権利をイギリス国民の権利よりも優先させるものだ」と述べた。 この日の判決後、ベル・ホテル前には約100人の抗議者が集まり、警察によって道路向かいの囲いの中へ移動させられた。 現場では難民申請者がやじを飛ばされる場面を、BBC記者が目にしている。 エセックス警察によると、3人の男性が逮捕された。容疑はそれぞれ、暴力的な騒乱、警察官への暴行、そして飲酒運転となっている。このうち、飲酒運転の容疑者は、車両を道路の反対側から警察の規制線に向けて走行させたとされている。3人はいずれも、現在も拘束中だという。 このほか、ハートフォードシャー州チェズントなど、他地域のホテルでも抗議活動が行われた。 ベル・ホテルの前では7月以降、反移民を掲げる抗議活動と、それに対する反対デモが行われ、数千人が参加している。 こうした抗議は、このホテルに宿泊中のエチオピア人男性が、市内で14歳の少女に性的な嫌がらせをして性的行動を促したなどとして、性的暴行などの罪で逮捕・起訴された事件をきっかけにして起きた。 エチオピア出身のハドシュ・ケバト被告は事件の公判で、全ての罪状を否認している。 エッピング・フォレスト行政地区の法務チームは、この抗議活動が引き金となって、仮差し止め命令の申請に踏み切ったと説明した。 しかし、ビーン判事はこれについて「憂慮すべき事態だ」とした上で、「抗議活動の発生が訴訟の根拠を強化するというなら、それは難民施設周辺でいっそうの抗議活動や、場合によっては秩序を乱す行為を助長する恐れがある」と指摘した。 また、「いっそうの違法行為を助長する危険がある」とも判事は述べた。 警察によると、ホテル周辺での騒乱に関連してこれまでに28人が逮捕されており、そのうち16人が訴追されている。 ビーン判事は、エアー判事が8月19日に仮差し止め命令を下した際、「複数の誤りを犯した」と批判した。 また、イヴェット・クーパー内相が審理直前に提出した、地元側の訴えを却下する申し立てを高等法院が認めなかった点についても問題視している。 この申し立てが認められていれば、難民申請者の移転に伴う課題について、エアー判事もより深い理解が得られたはずだと、ビーン判事は述べた。 高等法院において、エッピング・フォレストの自治体は、ベル・ホテルを所有するソマニ・ホテルズが、ホテルを難民受け入れ施設に転用することで都市計画上の用途に違反したと主張した。 自治体の報道担当は、「闘いは終わっていない。我々は引き続き闘い続ける」、「エッピングの住民がそれを期待するのは当然で、私たちはそれに応える」と話した。 エッピング・フォレスト選挙区選出のニール・ハドソン下院議員(保守党)は、今回の判決を「ひどい決定だ」トと批判した。 野党リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首は、政府がヨーロッパ人権法を「エッピングの人々に対抗する形で」利用したと主張。移民が「スターマー政権下ではイギリス国民よりも多くの権利を持っている」と述べた。 ただし、政府は控訴審への提出書面でヨーロッパ人権法に言及したものの、それは主要な論点ではなかった。控訴院の判決要旨によると、法廷の判断にもヨーロッパ人権法は大きく影響しなかったという。 難民支援団体「ケア・フォー・カレー(Care4Calais)」のスティーヴ・スミス代表は、今回の判決について「暴力的な抗議活動や、場合によっては露骨な人種差別が、極右勢力による難民の権利への攻撃を正当化する近道にはならないことを明確にした」と述べた。 野党・自由民主党のリサ・スマート報道官(内政担当)はBBCに対し、「(与党・)労働党は、滞留している難民資格の申請処理を迅速化し、ホテルの使用を完全に終わらせるべきだ」と語った。 デイム・アンジェラ・イーグル国境警備・難民担当相は、「ホテルの使用は持続可能な解決策ではない」として、政府として「議会の今会期中に終了させる方針だ」と述べた。 また、「今回の判決は、計画的かつ秩序ある形でその方針を進める上で助けになる」、「難民用ホテルから出たいと、誰もが同じことを望んでいる」と付け加えた。 ■ホテルは難民申請者の受け入れを「命綱」と説明 控訴院での審理では、28日に意見陳述があり、それを受けて判決が下された。 その中で、ベル・ホテルにおける難民申請者の受け入れは、同ホテルの「命綱」だと説明された。2022年8月、一般客向けに営業していた際の稼働率はわずか1%だったという。 また、内務省の難民支援部門ディレクターを務めるベッカ・ジョーンズ氏は、ベル・ホテルの152床を失うことは「重大かつ増大する」圧力の中で大きな打撃となると述べた。 審理では、2025年3月31日時点で、「難民ホテル」に収容されている難民申請者の数が10万3684人に達しており、2024年よりも増加していることが明らかにされた。 一方、エッピング・フォレスト側のフィリップ・コッペル勅選弁護士は、控訴の申し立てを認める「説得力のある理由は存在しない」と主張した。 (英語記事 Asylum seekers to stay at Epping hotel after government wins appeal)

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