【時論】米国の移民取り締まりの衝撃と不十分なビザ対策

現代(ヒョンデ)自動車とLGエナジーソリューションが米国ジョージア州に合同投資したバッテリー工場の労働者約300人を、米国移民・関税執行局(ICE)が不法移民の取り締まりを理由に逮捕・拘禁した事件は衝撃的だ。不幸中の幸いとして、韓国政府と企業が米国側を説得し、316人が拘禁から1週間でチャーター機により帰国した。 しかし今回の事件は、ドナルド・トランプ政府の矛盾した政策の問題点を如実に示した。米国製造業を復活させ「米国を再び偉大に(MAGA)」とし、韓国など外国企業の直接投資を奨励しながらも、MAGA支持層の反移民感情に迎合し、投資に不可欠な外国人労働者までも拘禁したのだからあきれるほかない。 当事者である企業と労働者が当惑しているのは明らかだ。米国製造業を復活させるというトランプ大統領の公約を信じ、米国に駆けつけ昼夜を問わず働いてきた人々を、突然、魚を束ねるように鎖で繋ぎ劣悪な拘禁施設に収容したのだから、当事者たちはトラウマを負っただろう。実際、米国製造業の復活には、彼ら韓国人熟練労働者が工場建設に投入され、今後は米国人運営人員の教育と訓練も担わねばならない。 これら企業は、米国で直接生産する場合は高率の相互関税を課さないとトランプ政府が公言したため、苦心の末に対米投資を決定したはずだ。ところが、現地派遣社員の安全さえも米国の不透明で恣意的な法執行のために保障されないのであれば、むしろ関税を払って輸出する方がましだという声まで出ている。 これまでは米国の基準が事実上のグローバルスタンダードだった。ところがトランプ第2期政府で、自由な企業活動のために公正で予測可能な法執行を求めて韓国側が米国側に要請する状況は極めて異様だ。訪韓したクリストファー・ランドー米国務副長官が9月14日、朴潤柱(パク・ユンジュ)外交部第1次官と会談し、大規模取り締まり事態について遺憾を表明し再発防止を約束したという。トランプ政府が投資誘致と移民取り締まりの矛盾をようやく認識し、ビザ政策など関連制度整備に乗り出すとは、遅きに失したと言わざるを得ない。多くの韓国国民を衝撃に陥れた今回の事態が発生した経緯と収拾過程を振り返れば、韓国政府にも反省すべき点は少なくない。韓国はこれまで米国に最も多く投資してきたにもかかわらず、米国政府から就労ビザ枠を十分に確保できなかった事実が今回赤裸々に明らかになった。 韓国の米国就労ビザ発給件数は、韓国人口の約8分の1にすぎないシンガポールのビザ枠の半分にも満たない。韓国より対米投資額が大幅に少ないインドには、より多くの就労ビザが発給されている。韓国より人口の少ないオーストラリアは、米国と結んだ自由貿易協定(FTA)をうまく活用してかなりの数のビザ枠を確保している。外務省や駐米韓国大使館はいったいこれまで何をしていたのか。 12・3非常戒厳令と大統領の弾劾・罷免、そして間もなく実施された早期大統領選挙という政治的激変を考慮したとしても、外交の空白は痛恨の極みだ。新政府が前任政府の任命した特任公館長を慌ただしく本国に召還したため、今回の事態発生当時、駐米大使とジョージア州アトランタ駐在総領事が空席だった。慌ててワシントン総領事が現場に駆けつけなければならなかった。在外韓国人保護に欠陥が露呈した格好だ。 韓米両政府の間に挟まれ、押し出されるように対米投資に乗り出した挙げ句、自社派遣労働者が一斉に米移民当局に逮捕されるに至ったのだから、当該企業にとっては寝耳に水の事態といえる。しかし韓国企業も今回の事態に事前に備えなかったのは残念な点だ。米国はこれまで、韓国企業の役職員が電子渡航認証(ESTA)を取得したり、短期出張(B1)、観光・家族訪問(B2)目的の非移民ビザを取得して長期出張形式で米国に入国し対米投資業務を行ってきたことに不満を示してきた。 今回の事件以前にも韓国企業がICEに取り締まりを受けたり、ビザ発給を拒否されることがあった。いくつか兆候があったにもかかわらず、企業は多角的に備えられなかった。韓国と事情が似ている日本企業は、現地駐在員ビザなどを活用してきたという。雨降って地固まるのことわざの通り、今回の事態を契機に韓米両国政府と企業が、同様の事態の再発防止に共に努めることを望む。 ◇外部者執筆のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。 シン・ドンチャン/法務法人ユルチョン弁護士

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