ナーディーン・サード(ロサンゼルス) 米ディズニー傘下のABCテレビは17日、人気の深夜トーク番組「ジミー・キメル・ライブ!」の放送を無期限で中止すると発表した。同局の広報担当者は、「『ジミー・キメル・ライブ!』の放送は無期限で差し替えとなる」と声明で述べた。右派活動家チャーリー・カーク氏の銃撃事件をめぐるキメル氏の発言を受けての決定とされている。ドナルド・トランプ大統領はABCの発表直後に、その決定を歓迎した。 キメル氏は15日の放送で、「MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)の連中は必死になって、チャーリー・カークを殺した子供が、自分たちとは全く違うと見せかけようとしているし、この事件から何としても政治的な得点を稼ごうとできる限りのことをしている」と発言した。 キメル氏は続けて、カーク氏追悼のため半旗を掲げる動きがアメリカ国内で広がっていることや、トランプ大統領の反応を批判。「これは友人の殺害を悼む大人の態度じゃない。これは金魚をなくして悲しむ4歳児の反応だ」と述べた。 カーク氏は9月10日、ユタ州の大学で開催されたイベント中に銃撃されて死亡した。タイラー・ロビンソン容疑者(22)が11日に逮捕された後、殺人罪などで訴追され、16日に出廷した。 キメル氏は事件当日、インスタグラムで事件を非難し、カーク氏の家族に「愛」を送ると投稿していた。 当局は、ロビンソン容疑者の動機については明らかにしていない。検察によると、容疑者の母親は「息子はこの1年ほどで政治に関心を持ち始め、左派寄りになり、LGBTQ(性的少数者)の権利を支持するようになった」と説明している。ロビンソン容疑者はどの政党にも所属せず、2022年および2024年の選挙では投票していなかったという。 ABCがキメル氏の番組の放送中止を発表すると、トランプ大統領はその直後、「アメリカにとって素晴らしいニュースだ」とソーシャルメディアに投稿。「視聴率に苦しむ『ジミー・キメル・ショー』がキャンセルされた。ABCが必要なことをする勇気をついに持てた。おめでとう」と書いた。 トランプ氏は、NBCテレビの深夜トークショーを司会するジミー・ファロン氏とセス・マイヤーズ氏についても「フェイク・ニュースNBCの完全な負け犬」と呼び、「二人の番組もひどい視聴率だ」と書いた。 大統領は以前からキメル氏と舌戦を繰り広げていた。米アカデミー賞の授賞式司会者を4回務めているキメル氏は昨年、授賞式の最中に、トランプ氏が自分の司会ぶりを酷評して書いた内容を読み上げた。 連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、キメル氏の15日の発言について「これ以上あり得ないほど不快なふるまい」だったと非難し、ABCの親会社ディズニーに対応を呼びかけていた。 トランプ大統領に指名されてFCC委員長に就任しているカー氏は、「(放送局は)FCCから放送免許を与えられている。免許を受けるからには、公共の利益に資する運営が義務付けられている」と保守系ポッドキャスト番組で述べた。また、キメル氏が謝罪することが、「最低限の合理的な対応だ」とも話した。 一方、FCC唯一の民主党員アンナ・ゴメス氏は、カー委員長の発言を批判。「異常な状態にある1 人の人間による許しがたい政治的暴力を利用して、幅広い検閲や統制を正当化するなど決してあってはならない」とソーシャルメディア「X」に投稿した。 ハリウッドの労働組合、全米脚本家組合(WGA)は、キメル氏の番組降板を「憲法で保障された言論の自由の侵害」だと非難。「この根本的な真理を忘れた政府関係者は恥を知るべきだ」と声明を発表した。 俳優組合SAG-AFTRAも、ABCの措置は「すべての人の自由を危険にさらすような、抑圧と報復だ」と述べた。 ABCの発表は、アメリカ最大級のテレビ局運営会社ネクスター・メディアが「ジミー・キメル・ライブ!」の放送を当面中止すると発表した直後に行われた ネクスターは、カーク氏殺害に関するキメル氏の発言が、「国家的政治対話の重要な時期において、攻撃的かつ無神経なもの」だと批判。同社のアンドリュー・アルフォード社長は、キメル氏の発言が「私たちが拠点とする地域社会の、さまざまな意見や見解や価値観を反映するものだとは思わない」と述べた。 FCCのカー委員長は、ネクスターが「正しいことをした」と感謝し、他の放送局にも同様の対応を期待すると述べた。ネクスターは現在、テグナ社との62億ドル規模の合併に向けてFCCの承認を求めている。 アメリカ最大のABC系列局グループ、シンクレアもこれに追随し、19日のキメル氏の放送枠でカーク氏を追悼する特別番組を放送すると発表した。 CNBCは消息筋の話として、キメル氏はABCに解雇されたわけではなく、ABC幹部は復帰時の発言内容について本人と協議する予定だと伝えている。 アメリカの視聴者が伝統的なテレビ視聴から配信動画の視聴へと移行する中で、各局の深夜トーク番組は視聴率で苦戦し続けている。 CBSは今年7月、深夜トーク番組「レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア」を来年終了すると発表した。 司会のコルベア氏を含め大勢の意表を突いたこの発表について、CBSは「この決定は深夜番組を取り巻く厳しい状況下での純粋な財務的判断」で、「番組のパフォーマンス、内容、その他の事柄とは一切関係ない」と説明した。 しかし、コルベア氏はこれに猛反発し、CBSと親会社パラマウントを非難。CBSが財務情報をマスコミにリークしたと批判し、CBSが昨年の調査報道番組「60ミニッツ」で放送したカマラ・ハリス前副大統領へのインタビューをめぐり、トランプ氏に訴えられた結果、大統領に1600万ドルを払うことで和解したことと関係するのではないかと言及した。 昨年12月にはABCが、司会者ジョージ・ステファノポロス氏が番組中にトランプ氏が「レイプで有罪判決を受けた」と誤って繰り返し発言したためトランプ氏に名誉毀損で訴えられた訴訟で、和解金1500万ドルを支払うと合意している。ニューヨークの連邦地裁は民事裁判で2023年5月、トランプ氏による「性的暴行」を認定したが、レインプは認定していない。「性的暴行」はニューヨーク州法において限定的な意味をもつ。 番組が中止された16日、キメル氏はハリウッドの撮影スタジオを出て、車でその場から離れた。生放送の番組を観覧しようと行列していた多くのファンは、放送中止に落胆の声を上げた。 ヴァージニア州から休暇でロサンゼルスを訪れていたジャナ・ブラックウェル氏はBBCに対し、「これはもう、ばかばかしい、頭の悪い事態だ。言論の自由でしょ。自分の意見を口にしただけで、キャンセルされるなんて。奇妙きてれつな事態だと思う」と話した。 スタジオ前では、「トランプは今すぐ退陣を」と書かれたプラカードを掲げる小規模な抗議活動も行われた。 追加取材:レーガン・モリス(ロサンゼルス) (英語記事 Jimmy Kimmel taken off air over Charlie Kirk comments)