月9『絶対零度』は迷走中…「沢口靖子の監禁いたぶり」という倒錯シーンは “誰得” だったのか

まさに “迷走” といった感じの月9ドラマ『絶対零度~情報犯罪緊急捜査~』(フジテレビ系)。 御年60歳の沢口靖子が35年ぶりにフジの連ドラに主演するということで、放送前は注目を集めていたが、評価はかんばしくない。 11月3日(月)に第5話まで放送されているが、ここ数話の視聴率(ビデオリサーチ調べ/関東地区)は世帯5%台、個人3%台と低空飛行を続けており、TVerのお気に入り登録数も65.3万(11月7日現在)といまいち。 迷走ぶりがそのまま数字に表れているのかもしれない。 ■沢口靖子はチームの最年長メンバー 異色の刑事ドラマである『絶対零度』は、今作がシリーズ第5弾。2010年放送の1作目、2011年放送の2作目は上戸彩が主演、2018年放送の3作目、2020年放送の4作目は沢村一樹が主演、そして最新作は沢口靖子主演と、主人公が変更されてきた珍しいタイプのシリーズ作品である。 今作は、情報技術を高度に操り、悪用して国民の生命や財産を脅かす情報犯罪グループを追う捜査機関「情報犯罪特命対策室」、通称「DICT(ディクト)」の活躍を描く物語。 特殊詐欺やサイバーテロなど、現実のニュースでも近年よく取り上げられる犯罪を題材に、主人公たちはその犯人を追っていくことになる。 沢口演じる主人公・二宮奈美は「DICT」の最年長メンバーで巡査部長。もともと生活安全課で地域の少年犯罪を担当していたこともあり、地域密着型の捜査スタイルで、事件現場周辺の住民たちへ丹念に聞き込みするなど、足を使って情報を集めるタイプだ。 ■喜んだのは一部の熟女SMマニアだけ? 本作の沢口靖子はとにかくよく動く。ガチで疾走するシーンもあれば、犯人との対決で肉弾戦をこなすシーンもあり、その挑戦には敬意を表したい。 また、「DICT」が追うのはどれも今風の事件ばかりで、エグいハードな描写もある。 たとえば第5話は、かつて逮捕されたことを逆恨みした犯人が、主人公・奈美を拉致する事件が描かれた。 薄暗い地下室にて手足をロープで縛られ監禁された奈美。犯人は彼女の脚の骨を折ったり首を絞めつけたり嗜虐的に振る舞う一方、ペットにエサを与えるように食事を与えるなど、奈美をかわいがって “飼育” したい願望も垣間見える、倒錯した欲求を持った異常者だった。 迷走だと感じたのは、まさにこういうところ。 本作の視聴者は沢口靖子ファンや、ファンまでいかずとも好印象を持っている層が多いはずだが、彼女のこんなシーンが観たい視聴者ってどれほどいるのだろうか。一部の熟女SMマニアは喜んだかもしれないが、大半の視聴者がこういったきわどいシーンを望んだとは考えにくい。 比較的若いドラマファンはハードな描写に慣れているだろうが、沢口ファンは主に50代以上だろうから、ストーリーとファン層の乖離が生まれてしまった気がするのである。 ドラマ制作サイドとしては、50代以上の沢口ファンを獲得しつつ、コア層(13歳~49歳)も取り込むという両取りを狙っているのかもしれないが、それが裏目に出ている印象。 「二兎を追う者は一兎をも得ず」で、コア層をうまく取り込めていないだけでなく、『科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)を観ていた沢口ファンからもやや敬遠されそうだ。 ■TBSドラマに月9の十八番を奪われた 「月9」といえばフジテレビの看板ドラマ枠だが、今クールのフジGP(ゴールデン・プライム)帯ドラマからは、フジテレビ自体の窮状が透けて見える。 フジテレビに勢いがあった90年代は、民放各局のなかでもっとも若者ウケしていたのがフジのドラマだった。 しかし、若者ウケの象徴だった月9ドラマは還暦女優が主演しており、水曜22時枠の『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は、菅田将暉主演だが、設定が1984年のため食いついているのは中高年だ。 月曜22時枠の草彅剛主演『終幕のロンド —もう二度と、会えないあなたに—』、火曜21時枠の佐藤隆太主演『新東京水上警察』、木曜22時枠の北村有起哉主演『小さい頃は、神様がいて』の3作も、若者向けとは言いがたいストーリーやキャストになっている。 若者ウケは捨てて中高年狙いでヒットしているならまだしも、フジのGP帯5作品は評判がよくなかったり、あまり話題になっていなかったりするドラマばかり。今クールでもっとも若者から注目を集めてバズッているのは、TBSのラブコメ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』だから、かつての月9の十八番を完全に奪われた格好だ。 いずれにしても、迷走感が否めない沢口靖子の『絶対零度』。今夜の放送は第6話で後半戦に突入するため、ここから巻き返しできるか、注目したい。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『文春オンライン』(文藝春秋)、『現代ビジネス』(講談社)、『集英社オンライン』(集英社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『コクハク』(日刊現代)、『日刊SPA!』『女子SPA!』(扶桑社)などにコラム寄稿

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