「被害者の方、それに被害者のご家族の方が、そうとうつらい思いをしたっていうのも、今回初めて感じることができました。もう二度とこういうことはいたしません」 約10ヵ月にわたって同じ女子高生に痴漢をし続けた市川市の会社員・細矢武志被告(39)は、最終陳述で、こう謝罪の言葉を口にした。 「警視庁深川署は’25年6月18日に、東京都迷惑防止条例違反の疑いで細矢被告を逮捕しました。細矢被告は地下鉄の車内で、女子高生Aさん(当時15歳)に痴漢行為をしているところを捜査員に発見され、その場で現行犯逮捕されたのです。 Aさんが16日に『昨年8月初旬ごろから地下鉄の車内で週2~3回、同じ男に体を触られ続けている。ずっと我慢していた』と警察に相談。18日には捜査員がAさんと地下鉄に同乗し、警戒していました。 その後の捜査で、Aさんに性的暴行を加えていたことも判明し、7月1日に不同意性交の疑いで再逮捕。細矢被告は『好みのタイプで抵抗しないので何度もやった。通勤時以外でも休みの日にもやっていた』と容疑を認めています」(全国紙社会部記者) 10月24日、細矢被告の第2回公判が東京地裁で開かれ、結審した。初公判(10月15日)から結審までの裁判の流れを振り返りたい。 初公判で、検察官が読み上げた起訴状や冒頭陳述から明らかになった犯行の詳細は、以下のようなものだった。 「被告人は遅くとも’24年8月ごろから電車内においてAさんに対する痴漢行為を継続して行っていました。’25年6月16日、被告人はAさんに痴漢行為をする目的で、駅ホームでAさんを待ち伏せし、その姿を確認すると同じ車両に乗車して背後に立ち、着衣の上から臀部を手で触りました。 Aさんが電車を乗り換えると追跡し、同じ車両に乗り込みました。隣の席が空くとそこに座り、リュックサックで手元を隠しながら、Aさんの太ももを着衣の上から触ったのです。 さらに6月18日、Aさんに痴漢行為をするために駅ホームで待ち伏せし、その姿を確認すると同じ車両に乗車して背後に立ち、着衣の上から臀部を手で触りました」 逮捕後の捜査で判明した6月12日の性的暴行は、「Aさんに痴漢行為をする目的で、Aさんが乗車しているであろう時間帯の電車に乗り、その姿を確認するや彼女の背後に立ち、衣服内に手を入れて、性的暴行を加えました」というものだった。 ◆「早く、いち早く治療を受けたい」 細矢被告は被告人質問で、執拗なまでにAさんに痴漢行為を繰り返した動機をこのように述べている。 「同棲していた内縁の妻とのすれ違いからセックスレスになって、欲求不満状態になっていました。被害者さんが彼女に雰囲気が似ていたので、彼女に対する欲求を満たすために、被害者さんだけに加害行為をしていました」 職場での異動にともない、慣れない作業や人間関係に悩んでいたり、親族の介護などからストレスが溜まっていたことも痴漢行為を繰り返したことの原因だったという。 細矢被告は’08年と’13年にも痴漢行為で逮捕され、迷惑防止条例違反の罪で罰金刑を受けている。当時のことについては、「完全に性欲を満たすためだけに痴漢行為をした」と述べ、「逮捕されたことは父親しか知らなかったため、周りに隠し通せてしまい、自らを省みることができていなかった」と振り返っていた。 これまでの前科をふまえて、今回の逮捕後に細矢被告は、臨床心理士のカウンセリングを受けたという。そして、自身の「痴漢の性癖」に気づき、治療計画書を作成してもらったとのことだった。細矢被告は「性的認識の歪みを治したい」という強い願望があると検察官に訴えた。 「早く、いち早くその治療を受けたい。治療計画書の中にも、変わりたいという意識が高いうちに治療を受けたほうが効果が高いと書いてありました。もう二度とこういうことをしたくないので、いち早く治療を受けたいです」 声を張り上げ、治療への意欲を語る細矢被告に対して、検察官は質問を重ねる。 検察官「あなたとしては社会の中で更生したい。そういう話ですか?」 細矢被告「それが叶うのであれば、そうですけれども」 検察官「もし実刑判決が下された場合は、どうするんですか?」 細矢被告「服役後に、すぐにでも通いたいと思っています」 ◆女性を「モノ扱い」するかのような言葉を やや前のめりすぎるように感じてしまうほど、更生への意欲を見せる細矢被告。しかし一方で、検察官が読み上げたAさんの父親の供述調書は、彼への頑なな処罰感情を感じさせる内容だった。 「こんなにも長い間我慢していた娘の気持ちを考えると、私もつらい気持ちになります。娘が負った心の傷は、そう簡単に癒えるものではありません。保護者として、犯人にはもちろん厳罰を望みます。示談の話などが来ても、いっさい応じるつもりはありません」 第2回公判では、細矢被告のために嘆願書を書いたという友人が情状証人として出廷した後、論告弁論が行われた。 検察官は、「前科にかかる事件においても、本件と同様に電車内で未成年者への痴漢行為を行っていたことから、被害者と同年代の未成年者に対して強い性欲を有し、これを発散させるためなら違法行為も辞さないという強い常習性が認められる」として、「拘禁刑6年」を求刑。 一方、弁護人は、親族や同棲している女性、友人が身元引受人となり、今後の被告の監督や更生の手助けをすると誓っていることに触れ、「内縁の妻との関係性が良好となってストレスが大きく軽減されており、被告人の深い反省や、4人の身元引受人の存在もふまえれば、再犯の可能性はないといえます」と述べ、「今回に限りできるだけ寛大な判決、できましたら、拘禁刑3年執行猶予5年をお願いしたいと考えます」と主張したのだった。 最終陳述で、細矢被告は冒頭のように述べた後、嗚咽し涙ながらにこう続けた。 「私が逮捕されて今日にいたるまで、被害者さんだけじゃなく、自分の周りにいる知り合いと私の大切な内縁の妻は、相当つらい思いをしたと思います。もう絶対に新しい被害者を出さないようにしたい。以上です」 「痴漢の性癖」を早く治療したいと、まくしたてるように訴え続けた細矢被告。だが、検察官の「溜まったストレスの発散方法として、痴漢行為をやってしまった原因は何か」という質問に、こう答えていた。 「彼女がいるのだから、彼女で発散すればいいんですけど、セックスレスになって発散できず、まったく無関係の被害者さんで発散していました」 被害者はもちろんのこと、同棲中の女性に対しても〝ストレス発散の対象〟としか思っていないような発言が気になった。治療よりもまずは、そういった女性を「モノ扱い」するかのような認識を改めたほうがいいのではないだろうか。 判決は12月12日に言い渡される予定だ。 取材・文・写真:中平良