1960年代後期に実際に起きた事件を題材にした映画「ブルーボーイ事件」(飯塚花笑監督)公開記念舞台あいさつが15日、東京・TOHOシネマズ新宿で行われた。 トランスジェンダーを題材にした映画に、当事者としてキャスティングされた主演の中川未悠(30)は「幸せになる権利は誰もが持って良いと思います。性別、国籍問わず、にじみ出ると思う。正解がないと思う。いろいろな色、形…幸せもグラデーション。背中を押したり、心の光になればいい。末永く愛して欲しい」と客席に呼びかけた。 「ブルーボーイ事件」は、東京五輪景気に沸く1965年(昭40)に3人の男娼(だんしょう)に性別適合手術を行った医師が、優生保護法(現母体保護法)第28条違反と麻薬取締法違反で逮捕、起訴され69年に有罪判決を受けた実際の事件に衝撃を受けた、自らもトランスジェンダー男性の飯塚花笑監督(35)が脚本から手がけた。映画の舞台は65年の東京で、国際化に向け売春の取り締まりを強化する中、性別適合手術を受けた通称ブルーボーイたちを一掃して街を浄化するため、警察が手術を行った医師を逮捕。手術の違法性を問う裁判には、実際に手術を受けた証人たちが出廷した。 トランスジェンダー役に当事者をキャスティングすると掲げてオーディションを開催し、40人が参加。演技初挑戦で主演を務め上げた中川もトランスジェンダー女性で、性別適合手術を受けた女性サチを演じた。女性として生き、恋人からプロポーズを受けた生活を壊したくないと拒むも、映画初出演のドラァグクイーンのイズミ・セクシーが演じた、先に証言した友人アー子の死を受けて証言台に立つ役どころだ。 中川は、印象的なシーンについて聞かれると「1番、力が入ったのが法廷のシーン」と即答。「クランクインから4日目。すぐ大本番が来るということで、私の中では緊張、プレッシャーもあった。『本当に大事なシーンだから』と何百回も言われ、失敗できひんなと思った。せりふが長く言えるかなと心配があった。テストで1回、言えた安心感か開放感からか泣き崩れてしまった。中村中さんがいてくれ、助けられた」と、ブルーボーイのリーダーを演じたシンガー・ソングライター中村中(40)に感謝した。 中村は、裁判長から「幸せですか?」と聞かれたサチが「私は今、幸せです。でも、きっと皆さんが思うような幸せではありません」と答えたシーンを引き合いに「性的マイノリティー(LGBT)のためだけに作ったと思われたくない」と訴えた。「マイノリティー性、マジョリティー性の架け橋になるせりふだと思った。マジョリティー性を持つ人のための映画であると伝えたい」と続けた。 劇中でユキを演じた六川裕史(39)は「セクシュアルマイノリティーは世の中に浸透してきたと思うんですけど、まだこういうこと、あるんだな、言われちゃうんだなと、ハッとすることがある」と現状について語った。そして「知らない人を傷つけたり、傷つくんだなと。知らない人にも、たくさん見ていただきたい。苦しい思いをした方にも、光になる作品になると、うれしい」と語った。 飯塚監督は「自分の映画なので、おこがましいけれど、世の中のためを思って作った。この作品が広がって成功例になれば、世の中にどれだけ影響を与えるか、と思う。心を込めて作った子供を、応援者となって送り出していただると、ありがたいと思う」と観客に応援を呼びかけた。