東京大学医学部付属病院の医師が医療機器メーカーから寄付金名目で賄賂を受け取ったとされる贈収賄事件で、この医師による申請によって、2019年に同病院内での同社製品の使用が決まったことが、捜査関係者への取材でわかった。この申請前に同社側から医師に寄付を持ちかけたと警視庁はみている。 捜査2課によると、東大病院医師の松原全宏容疑者(53)は21年9月と23年1月、医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」が扱う大腿(だいたい)骨のインプラントの使用について便宜を図る趣旨で、同社側に現金計80万円を寄付させ、うち計約70万円相当の賄賂を受け取った疑いがある。同社元社員の鈴木崇之容疑者(41)は23年1月に賄賂を渡した疑いがある。いずれの認否も明らかにしていない。 当時、鈴木容疑者は東京23区の医療機関に営業する部署に所属していた。部下だった元社員の30代男性=警視庁が贈賄容疑で任意で捜査中=が松原容疑者の担当だった。 東大病院で同社の製品は当時使われておらず、同社による松原容疑者への営業は19年春ごろ始まった。骨折手術などをする「外傷診チーフ」として、医療機器を選ぶ権限があったという。 東大病院では、医療機器を使う前に、病院内の審査を経て登録する必要がある。似た機能をもつ医療機器の種類は一定数以内に保つ「1増1減」という仕組みもある。 松原容疑者は19年9月、同社の大腿骨のインプラントについて登録を申請して同年11月、登録された。同社は翌20年3月、松原容疑者側に初めて寄付。21年9月と23年1月にも寄付をしており、この2回の寄付が収賄の逮捕容疑になった。 鈴木容疑者側から持ちかけて寄付した、と同課はみており、使用への見返りや、登録を外されないようにする趣旨だったとみている。(三井新、西岡矩毅) ■東大病院の汚職事件をめぐる経緯 2019年春 日本エム・ディ・エムが松原容疑者に営業開始 9月 松原容疑者が同社医療機器の使用を申請 11月 同社医療機器の登録 20年2月 同社社員が容疑者を飲食接待 3月 同社が40万円を寄付 21年9月 同社が40万円を寄付(2回目) 23年1月 同社が40万円を寄付(3回目) 2月 飲食接待(2回目) 25年11月 警視庁が容疑者らを逮捕 ※警視庁捜査関係者への取材による。肩書は当時