客観的証拠に基づかない見立てに固執した犯罪捜査を、厳しく指弾する司法判断である。捜査機関は猛省し、検察は控訴してはならない。 宮崎県串間市が2023年に発注した新消防庁舎設計業務の指名競争入札を巡る官製談合事件が舞台となった。宮崎地裁は10日、官製談合防止法違反などに問われた元副市長の福添忠義被告に対し、無罪の判決を言い渡した。 この事件では、久米設計(東京)の元九州支社長と元営業担当、仲介役の元会社役員の3人が有罪判決を受け、いずれも確定している。 福添被告は逮捕時から一貫して潔白を訴えていた。 検察側は、被告が久米設計に落札させる目的で、公正な入札を妨害したと主張していた。元会社役員を介し、談合に協力しそうな業者のリストを久米設計に作成させ、それを基に指名業者選定案を作成した-という構図である。 主な争点は二つあった。検察側が立証の軸とした元会社役員の証言の信用性と、警察の捜査で見つからなかった業者リストの存在である。 判決は、元会社役員の証言を「全体として非常に曖昧な内容」として信用性を否定した。リストについても、関与したとされる元営業担当が「作っていない」と明確に否定している点などを挙げて「リストはなかったと考える方が自然だ」と検察側の主張を一蹴した。 その上で、被告と久米設計側との共謀は認められないと結論づけた。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の大原則に照らせば、妥当な判決である。 そもそも捜査段階から、被告に現金などの賄賂が渡っていないなど、警察の見立てに沿わない事実が明らかになっていた。なぜ、途中で引き返さなかったのか。 見立てありきで強引に捜査した警察の責任は重大だ。ブレーキ役を果たせなかった検察の責任も極めて重い。 大川原化工機を巡る冤罪(えんざい)事件でも、警視庁がなりふり構わずでっち上げ、検察が追認した実態が明らかになった。捜査機関に対する信頼低下を懸念せざるを得ない。 さらに深刻なのは「人質司法」の問題がまたも浮き彫りになったことだ。 容疑を認めた元会社役員は起訴後間もなく保釈された一方、被告は約8カ月も勾留された。身柄を人質代わりにして自白を迫り、否認を続けるほど拘束が長期に及ぶ人質司法の弊害が繰り返された。 元会社役員は勾留が長引くのを恐れ、取調官に迎合するような供述をした、と取材に答えている。人質司法が冤罪の温床となることを如実に示している。被告側の保釈申請を却下し続けた裁判所も重く受け止めるべきだ。 大川原化工機の事件を受けて、最高裁は来月、保釈の判断について意見を交わす研究会を開く。人質司法からの脱却につなげねばならない。