時は13世紀末、イタリアの探検家マルコ・ポーロは日本について、「この国ではいたる所に黄金が見つかるものだから、国人は誰でも莫大(ばくだい)な黄金を所有している。(中略)豊富な黄金はかつて一度も国外に持ち出されなかった」(東洋文庫、愛宕松男訳「東方見聞録」2から)と記した。 それから七百数十年後の今、日本から巨額の金(きん)が輸出されている。とっくの昔に金を掘り尽くしたはずの日本が「黄金の国」になったが、きっかけは何と消費税であり、国民は貧しくなる一方だ。 金密輸で輸入時の課税逃れ 財務省の貿易統計によると、日本の金輸出は今年10月までの12カ月合計で3・6兆円、238トン、輸入はそれぞれ0・14兆円、8・5トンである。金の貿易収支は3・5兆円近くもの黒字だ。消費税率は1997年4月に5%、2014年4月8%、19年10月10%へと引き上げられたが、その都度金の輸出が急増している。22年2月のロシアによるウクライナ侵略開始後の国際金相場の高騰が重なり、輸出の額、量ともに膨み続けている。 輸出に比べて輸入のほうは圧倒的に少なく、量で見ると最近では輸入の3%前後に過ぎない。それでも、14年3月までは急増している。 消費税は金輸入時に課税される。24年当初の輸入増は税率アップ前の駆け込みとみることができる。増税後は輸入量が激減したまま、低水準で推移する。国内産金の供給は極めて少なく、とても輸出に回せるゆとりがないのだから、なぜ巨額の輸出が可能なのか。答えは密輸である。税逃れの密輸なのだから輸入統計上は把握できない。 金はいくらでも小さく細工できるので税関のチェックを逃れる術は多いだろう。他の貨物に潜り込ませたり、のみ込んでおなかにとどめおくこともできなくはない。純度の高い金は、空港の通常の金属探知機では検知が困難だという。 10%上乗せ販売 輸出で還付も 消費税課税を逃れたら、日本国内で消費税率、今なら10%を上乗せして販売できる。さらに、輸出すれば10%分の消費税が還付される。還付されるから輸出統計に計上される。 もちろん、その場合、その金塊が国内で仕入れたことを証明する必要があるが、金塊に刻印される売買期日などの細工は簡単など、いくらでも抜け道はある。17日付産経新聞朝刊は、警視庁特別捜査課が中国人グループを詐欺などの容疑で逮捕したと報じた。グループは密輸入した金の延べ棒に偽造刻印を施して正規品として売却した。