社説:匿流の指示役逮捕 SNSに巣食う犯罪根絶を

暗躍する卑劣な犯罪集団を、あぶり出す重要な一歩といえよう。 闇バイトが実行犯となった「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(とくりゅう))」事件で、警視庁などが初めて指示役を逮捕した。 昨年10月、実行役らに指示して、千葉県市川市の住宅で50代の女性にけがを負わせ、現金などを奪った容疑である。 首都圏の1都3県で発生した18件の連続強盗事件では、1人が死亡し、計2300万円相当の金品が奪われている。 これまでに実行役51人を逮捕したが、連絡に用いられた秘匿性の高い通信アプリが壁となって指示系統をたどれなかった。 逮捕した実行役らのスマートフォン約750台を1年以上かけて解析し、金の流れを追った。 別の事件で逮捕した容疑者のスマホに、市川市の事件に関与した現金回収役とやりとりしていた形跡が残っており、同市の強盗事件を指示した容疑を突き止めたとされる。 交流サイト(SNS)上で実行役を募集し、50以上のアカウントでやりとりしていたとみられる。 削除データの復元など、警視庁「捜査支援センター」の技術も解明の支えとなったという。 事件ごとに指示役が入れ替わっていた可能性があり、全18件で指示役を特定できるかが今後の焦点となる。 警察庁は広がる匿流対策を最重要課題とし、10月に司令塔機能を強化した。約140人体制で指示役などの割り出し加速を目指し、警視庁を含めて全国の捜査員が専従するチームも設置した。 また、捜査員が偽の身分証を使って犯罪グループに接触を試みる新たな捜査手法「仮装身分捜査」も導入した。 関連犯罪は深刻化している。警察庁まとめでは、特殊詐欺とSNS型詐欺の被害拡大が顕著だ。今年10月までの被害額は暫定約2467億円に上り、過去最悪の昨年1年分をすでに超えた。 「ルフィ事件」をはじめ、近年は東南アジアに犯罪グループの拠点が築かれ、実行犯に日本人らも集められて各国向けに特殊詐欺などを働いている。 国連によると2023年のオンライン詐欺被害額は、東アジアと東南アジアで計370億ドル(約5兆7千億円)に拡大している。 国境を越えた捜査連携が、より重要と言えよう。 一方で先月、警視庁の警部補が匿流グループに捜査情報を漏えいしていた容疑で逮捕され、大きな衝撃を与えた。 身分を偽って接触する捜査への信頼も、揺らぎかねないことを組織全体で自覚すべきだろう。 SNS社会にはびこる犯罪の抑止へ、一層の力を尽くさねばならない。

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