東大院卒エリート弁護士が“主犯”に 独房250日、骨が浮き立つ体…取調室で何が起きていたのか

華々しいキャリアは、ある日突然、暗転した。弁護士として5年目を迎えていた江口大和さんは、2018年10月、犯人隠避教唆の疑いで逮捕された。刑事裁判では有罪判決が確定し、信用がものをいう弁護士という職業において、その立場は大きく揺らいだ。さらに、逮捕後に待っていたのは、250日に及ぶ長期勾留だった。その間、取り調べの場では、担当検察官から誹謗中傷や暴言を浴びせられたという。江口さんの弁護団が当時の様子を記録した動画を一般公開すると、瞬く間に注目を集めた。現在、江口さんは検察官による違法な取り調べで黙秘権などを侵害されたとして、国を相手に国家賠償訴訟を起こしている。一審・二審では主張の一部が認められ、裁判は最高裁での判断を待つ段階にある。激動の人生を歩むことになった江口さんに、その胸中を聞いた。 江口さんは東大大学院を修了後、司法修習を経て弁護士となり、離婚や相続、刑事事件などを幅広く手がけてきた。特に、障がいのある人や生活に困窮する人に寄り添う弁護活動に力を注いでいた。 逮捕のきっかけとなったのは、弁護士業務の一環として相談に応じた際の書面が、捜査当局によって「口裏合わせの証拠」として扱われたことだったという。「信頼がすべての職業であるにもかかわらず、突然“主犯”に仕立て上げられた」。江口さんはそう振り返る。 刑事裁判では一審で懲役2年、執行猶予5年の有罪判決が言い渡された。即日控訴したものの、控訴審でも判断は維持され、23年、最高裁が上告を棄却。有罪判決が確定した。 一方、江口さんは22年、検察官による違法な取り調べで権利(黙秘権、弁護人依頼権、人格権)を侵害されたとして、国家賠償請求訴訟を東京地裁に提起した。裁判は26年2月14日時点で最高裁に係属中だ。 逮捕前、江口さんは任意の取り調べを計15時間にわたり受けていた。事件について記憶していることを率直に話していたため、捜査側は逮捕後も黙秘しないと見込んでいた可能性がある。 しかし、江口さんは逮捕を機に、完全黙秘に転じた。検察官との雑談すら応じなかった。 「私の場合は雑談に応じていると、つい人情が働いて事件に関係する話もしてしまいかねないという心配もありました。あやふやな記憶で間違った話をしてしまわないよう、最初から一貫して黙秘をすることにしました」 硬いパイプいすに座らされ、1日最長5時間に及ぶ取り調べの中で、江口さんは一言も発しなかった。密室で、黙秘を続ける被疑者と、供述を引き出そうとする検察官との緊迫した攻防が始まった。 江口さんは刑事弁護人として、黙秘に対する検察官の揺さぶりがあることは予想していたという。しかし、実際に浴びせられた言葉は、想像をはるかに超えるものだった。 「ガキだよね、あなたって。子どもが大きくなっちゃったみたいなね」「あなたの中学校の成績見てたら、あんまり数学とか理科とか、理系的なものが得意じゃなかったみたいですねえ。論理性がさあ、なんか、ずれてんだよなあ」 人格を否定するような言葉が、繰り返し投げつけられた。 トイレから戻っただけで、「取り調べ中断してすいませんでしたとか言うんじゃねえの、普通。子どもじゃないんだから。あんた、被疑者なんだよ。犯罪の」と叱責されたこともあった。さらに「うそをつきやすい体質」「詐欺師的な類型の人たち」といった発言まであったという。 「こういった言葉には特に傷つきました。取り調べの場だからといって、なんでこんなこと言われなきゃいけないのかと理不尽に思いました」 一審判決では、これらの発言の一部について「人格権を侵害するもの」として違法と認定された。ただ、江口さんは手放しで喜べなかった。 理由は、取調官の裁量によって取り調べが事実上無制限に続けられる点や、不安をあおる発言そのものは許容されると判断されたからだ。 「奥さんは時短勤務だから、かなり収入が少ない状態になってるわけだし。1歳2か月の娘さんと奥さん、1年間もつのかな」「実家のご両親を取り調べてきたけど、お母さんだいぶ動揺してたね」 検察官は、家族の状況を一方的に取り調べの場に持ち込んだ。さらに、恩師や司法修習時代の教官への聴取を匂わせる発言もあった。

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