(CNN) 英国の主要紙の1面には通常、さまざまな写真が掲載される。だが20日、英各紙の1面トップを飾ったのはすべて同じ写真だった。 66歳の誕生日を迎えたアンドルー元王子が車の後部座席にもたれかかり、呆然(ぼうぜん)とした表情で警察署を後にする姿を捉えた1枚だ。 アンドルー元王子は19日、現代史上初めて逮捕された英王室のメンバーとなり、イングランドの小さな町アイルシャムの警察署で10時間以上拘束された。王室のサンドリンガム領地内にある新居からは車で1時間ほど離れている。 衝撃の写真を撮影したロイター通信のシニアフォトグラファー、フィル・ノーブル氏は「きのうは写真の神様が味方してくれた」と振り返った。 ノーブル氏の拠点はイングランド北部。逮捕のニュースを受けて19日朝、約5時間かけて南のノーフォーク州へ車を走らせた。 勘と一部の信頼できる情報筋を頼りに、ノーブル氏ら2人のチームはおそらく正しいと思われる警察署に目星を付けた。アンドルー元王子が連行される可能性のあるテムズバレー警察の施設は約20カ所に上るため、待って様子を見るしかなかった。 ノーブル氏は「あの夜、ロイターが訪れた警察署は4カ所目か5カ所目だったと思う」と振り返る。「私が到着した時、普段と変わった様子はなかった。車はなく、警備が強化されている様子もなかった」 「正直に言うと、アンドルー元王子が来る直前、私はホテルに戻ろうとしていた。すると同僚のマリッサから、『今さっき2台の車が到着した、戻ったほうがいい』というメッセージがあった」。ノーブル氏は撮影の経緯を説明した動画で、率直にそう明かした。 そこから本当の勝負が始まった。ノーブル氏は「車を急いでUターンさせて戻った。戻って1分もしないうちに、警察署の車庫のシャッターが上がり、2台の車が出てきた。そのうちの1台に彼(アンドルー元王子)が乗っていた」と語る。 張り込み撮影には多くの要素が関わってくると、ノーブル氏は説明する。この仕事に求められるのはまず、準備とスキル、経験。それ以外に、何か重要な収穫につながるかも分からないまま、英国の田舎の道路脇で暗闇の中を何時間も立ち続ける覚悟も必要になる。 「今回の写真を撮影する30分ほど前に、警察署から出てくる他の車でテスト撮影していたので、カメラの設定については大体分かっていた」とノーブル氏は説明する。ノーブル氏はロイターに20年以上勤務しており、その前には英PA通信やマンチェスター・イブニング・ニュースの写真部門で働いた経験も持つ。 「それでも車が出てくる瞬間は、判断力より運の要素が大きい。彼がどこに座っているのか、車のどちら側か、前か後ろか、フラッシュのチャージは間に合うのかなど、見当を付ける必要がある」 ロイターによると、ノーブル氏が撮影した写真は計6コマ。2枚には何も写らず、1枚はピンぼけ、2枚は警官しか写っていなかった。しかし、1枚が決定的瞬間を捉えていた。 アンドルー元王子は19日夜遅く、「捜査中」との扱いで釈放された。警察は公務上の不正行為の疑いで逮捕するに至った理由を明らかにしていないが、アンドルー元王子は2001年から10年間、英国の貿易特使を務めた経歴を持つ。性犯罪で起訴され勾留中に死亡した米富豪、ジェフリー・エプスタイン氏との関係を批判され、11年に辞任した。 米司法省がエプスタイン氏関連の文書数百万点を公開した後に浮上したこの新たな疑惑について、アンドルー元王子は公には反応していない。アンドルー元王子は不正行為があったとの疑惑を繰り返し否定しており、エプスタイン氏が罪に問われた行為に関しては、目撃したことも疑ったこともないと主張している。 今回の写真について聞かれたノーブル氏は、芸術作品ではないが、これまで撮った中で屈指のニュース価値を持つ1枚であることは間違いないと語った。 「最高傑作かといえば、たぶん違う。夜にフロントガラス越しに撮った男性の写真だからね」。ノーブル氏はそう言って少し笑い、「私が撮った最高の写真? それも違う。でも、最も重要な1枚かと聞かれれば、100%そうだ」と語った。