ベン・スティール記者、マイク・ラッドフォード記者、ジョージ・ライト記者 警告:この記事には極端な暴力や自死に関する内容が含まれます ロシア軍の兵士4人が、ウクライナ前線の自軍側で起きている惨状と残虐行為をBBCに話した。このうち2人は、命令を拒否した兵士がその場で処刑されるのを見たと述べた。 兵士の1人は、2024年に「ロシア連邦英雄」の称号を与えられた指揮官の命令で、ある兵士が処刑されるのを目撃したと証言した。 「ほんの2メートル、3メートルの距離で見た。カチッ、カチャッ、バン……それだけだ」 別の部隊に所属する兵士は、自分の指揮官が4人の兵士を自ら撃ったのを見たと述べた。 処刑された兵士は「知り合いだった」と言う。「1人が『撃つな、何でもするから!』と叫んでいたのを覚えている」と話した。 別の兵士は、仲間によって「ゼロにされた」後、穴の中に横たわる20人ほどの兵士の遺体を見たとも述べた。味方兵の殺害は、ロシア軍内で「ゼロ」という隠語で呼ばれる行為だ。 BBCのドキュメンタリー番組「The Zero Line: Inside Russia's War(ゼロ・ライン:ロシアの戦争の内側)」の取材に応じた兵士たちは、ほとんど自殺行為に近い突撃への参加を拒否し、そして拷問されたと語った。ロシア軍はこうした攻撃を「肉の嵐」と呼び、ウクライナ軍を消耗させるため、波状的に兵士を前線へ送り込んでいる。 ウクライナ前線にいたロシア兵が、自軍の指揮官が部下の処刑を命じた状況を記録として証言したのは、今回が初めてだとBBCはみている。 証言した4人のうちの1人は、死亡した兵士の身元を特定して人数を数えるのが、自分の役割だったと証言した。一緒に動員された79人のうち、生き残っているのは自分だけだと示す詳細なリストを提示した。 この兵士は前線行きを拒否したために拷問され、尿をかけられたと述べた。同じように命令を拒否した他の兵士たちは感電させられ、飢えさせられ、さらに武器を持たされないまま「肉の嵐」に送り込まれたと語った。 現在、逃亡中だという4人は、ロシア国外の非公表の場所で、自分たちが目撃した惨状について証言した。 ロシアでは、ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻に公然と反対する行為は、ほぼすべて封じ込められている。 ロシア政府は戦死者数を公にしていない。イギリス国防省は、2022年2月24日の全面侵攻開始以来、死傷したロシア軍の兵士は120万人以上にのぼるとみている。 ロシア政府は、自国軍が「高強度の戦闘状況下でも可能な限り最大の慎重さをもって行動し、兵士を最大限に大切に扱っている」と主張した。 また、「違反行為や犯罪とされる情報については、適切に調査している」と述べた一方、「(BBCに)提供された情報の正確性や真実性を、独自に検証することはできない」とも述べた。 4人の兵士による詳細な一次証言は、前線のロシア側で法秩序が崩壊しているとの報告を裏付けるものだ。 死亡した兵士を特定して数える任務を担っていたイリヤ氏も、指揮官が仲間を殺害するのを目撃したと述べた兵士の1人だ。 35歳のイリヤ氏は戦争前、ウラル山脈地帯にあるクングールで、特別な支援を必要とする子どもや自閉症の子どもを指導していたという。しかし2024年5月、警察が両親の家を訪れ、徴兵だと告げられた。 イリヤ氏によると、ペルミの徴兵センターで78人の男性と一緒に動員された。 「ほとんど全員が酒に酔っていた」とイリヤ氏は話した。「戦いに突撃するぞ! ゼレンスキーを捕まえて旗を立てるぞ!」と、ほかの男たちは叫んでいたのだという。 「それを見ながら、『どうして自分はこんなところに』と思った。とても怖かった」 ウクライナに到着すると、一緒にいたほとんど全員が直ちに前線へ送られたという。自分は誰かを撃ったり殺したりしたくなかった、そして司令所に回されたのだとも説明した。 状況は過酷だったという。前線から逃げてきて、前線へ戻るのを拒んだとして、指揮官が至近距離で4人を撃つのを見たと、イリヤ氏は証言した。場所は、ロシアが占領する東部ドネツク州のパンテレイモニウカで1人、ノヴォアゾフスクで3人だったという。 「知り合いだったのが一番つらかった。そのうちの1人は『撃たないでくれ、何でもするから!』と叫んでいた。でも指揮官はかまわずに彼を『ゼロにした』」と、イリヤ氏は語った。 取材に応じた兵士らによると、「ゼロ」は通常、命令拒否への処罰として行われる。同じ行動を取る可能性のある兵士への威嚇(いかく)として機能しているという。 「運命は指揮官次第だった。指揮官は無線で『こいつをゼロにしろ、あいつをゼロにしろ』と言っていた」とイリヤ氏は語った。 命令を拒否した兵士を処刑するのは、イリヤ氏の部隊だけではなかった。 「(ロシアの部隊では)もちろん兵士を殺す。普通のことだ」とディマ氏は述べた。 戦争が始まるまで34歳のディマ氏は妻や娘と暮らし、首都モスクワで食洗機の修理をして働いていた。 2022年10月、仕事中に移動していた際、警察の一団に呼び止められたのだという。 「彼らは私のパスポートを見て、ノートパソコンで何かをして、『軍に行かなければ刑務所だ』と言った」と、ディマ氏は英語で振り返った。 ディマ氏は誰も殺したくなかった。そのため、医療経験がなかったにもかかわらず衛生兵部隊に入ったという。その後、前線から負傷兵を搬送する旅団に異動させられた。 第25旅団にいたとき、指揮官の命令によって仲間の兵士が処刑されるのを目撃したとディマ氏は話した。 「2〜3メートルの距離で見た。ただの殺人だ。カチッ、ガチャッ、バン……それだけだ。ドラマじゃない。映画でもない。現実だ」 ディマ氏の上官だったアレクセイ・クセノフォントフ氏は2024年、最高位の国家勲章である金星勲章を授与され、「ロシア連邦英雄」となった。 しかし、この部隊で死亡した兵士たちの家族が、クセノフォントフ氏を糾弾している。家族らは2025年1月にプーチン大統領に共同書簡を送り、部隊内の残虐行為疑惑を調査するよう求めた。 家族たちは書簡で、「彼らは誇りを持って祖国を守った!! ! しかし実際には、数万人の死者や行方不明者を出して勲章を受け取った指揮官の一味の中に、放り込まれてしまった!」、「そして連中は今も、この国の兵士を殺し続けている! 自分は罰せられないと思っている!」と書いている。 ディマ氏は、クセノフォントフ氏を「虐殺者」と呼んだ。 「あまりに何度も、兵士の殺害を命令した。彼の手は血まみれだ。あまりにも血だらけだ」 ディマ氏はまた、前夜に基地に到着した20人が射殺され、その翌日、遺体となって溝に横たわっているのを見たと話した。 この20人はいずれも、前科のある元受刑者だったという。ディマ氏は、そのうちの数人と会話したことや、男たちが翌朝になって連行されるのを見たことなどを話した。 衛生兵のディマ氏のもとには、死者の報告が日常的に集まった。ディマ氏は、この20人が指揮官に射殺され、銀行カードを取り上げられたと知らされたのだと証言した。 「20人の若者が連れて来られた。彼らの銀行カードを奪って殺した」 「記録から誰かを消すのは簡単だ。報告書をでっち上げればいい」 銀行カードは、指揮官らが持ち去ったと聞かされたという。 BBCのドキュメンタリーでは、ロシア軍に17年間いたという元幹部将校も証言している。匿名を希望したこの元将校は、高位の将校を複数人、殺害するのを手伝った男性と話をしたと明らかにした。 元将校によると、その男は自分が「生存者を始末するために派遣された粛清部隊の一員」だと話したのだという。 「軍で何年も働いてきて、そんなものは一度も見たことがなかった」 BBCの取材に応じた4人は全員、ロシア軍がウクライナの戦場で展開する「肉ひき機」戦術の一環となっている、非情な「肉の嵐」任務について、その惨状を詳細に語った。 「肉の嵐」はあまりに自軍の犠牲が多いため、自殺行為にたとえられる。 元兵士のデニス氏は、「指揮官は波状攻撃を何度も繰り返し、兵士たちを肉のようにウクライナ側へ投げ込んでいった。ウクライナ側の弾薬やドローンが尽きれば、兵士の次の波が目的地に到達できるからだ」と語った。 イギリス国防省によると、2025年にはウクライナで毎日約900〜1500人のロシア兵が死亡または負傷したとされている。 ディマ氏は、「肉の嵐」が実際にどのように行われるのか説明した。 「3人送り込む。それでだめなら、さらに3人。それでもだめなら10人。それでもだめなら50人送る」 「いずれは突破できる。それがロシア軍の理論だ」 「3日間で200人が死んだ。連隊の最初の『肉の嵐』で我々の部隊は崩壊し、連隊も3日で壊滅した」と、ディマ氏は述べた。 ディマ氏は続けて、2023年10月にソーシャルメディアに投稿された映像を私たちに見せた。そこには、彼の部隊で死亡した兵士の母親や妻たちが、甚大な損失に抗議する姿が映っている。 女性の1人は、「私たちの家族は、機関銃とシャベルだけを持って前進するよう命じられた」と話している。別の女性は、「ひどい損失だ。私たちの家族が虐殺されている」と述べていた。 「肉の嵐」への参加を拒否して殺されなかったとしても、過酷で人間性を奪うような扱いを受けるのだと、イリヤ氏は言う。 イリヤ氏は、ドネツク州パンテレイモニウカでの自部隊の様子だという映像を示した。メッセージアプリ「テレグラム」に投稿されたものだという。 男性が「動物にえさをやろう」と言い、ふたを開けると、穴の中で3人の兵士がうずくまっている。 撮影している男性が「腹が減ったか? えさがほしいのか?」と言い、1人が頭を上げてうなずくと、乾いた穀物が穴に流し込まれた。 撮影者は「ほら、食ってるぞ」と言い、穴の中の男性が穀物を食べる様子が映っている。 イリヤ氏によると、兵士たちは「数日間飢えさせられ」、感電させられたうえ、武器を持たされないまま「肉の嵐」に送り込まれたこともあったという。 イリヤ氏自身も、ある「肉の嵐」への参加を拒否した後に拷問されたのだと話した。 「木に縛りつけられ、警棒で何度か殴られ、頭に銃を突きつけられた」 「どう言えばいいのか……彼らは私に排泄(はいせつ)した。指揮官がみんなに『新しいトイレができたぞ』と言っていた。私は半日ほど縛られたままだった」 解放された後、イリヤ氏は自殺しようとした。 デニス氏は、穴の中にいる兵士たちに、密かに食料と水を届けたことがあると述べた。また、脱走兵とされる人物が尿をかけられている映像をBBCの取材班に示した。BBCはこの映像の真偽を独自に検証・確認できていない。 「これは人の名誉と尊厳を踏みにじる行為だ。ロシア軍では、これが当たり前になっている」と、デニス氏は語った。 「違法だが、誰も罰せられない。逆に、こうした行為を奨励されることさえある」 27歳のデニス氏は、戦場で行方不明になったドローンの捜索を拒否し、上官に前歯2本を折られたのだと言い、その直後に撮影したものだという写真を提示した。 「ひどい話だ。それでも続けるしかなかった」 ディマ氏は、士官になることを望んでいなかったが、最終的に昇進させられた。ディマ氏は、任官式の写真を私たちに見せた。 昇進後、自分の部下を「肉の嵐」に送らなかったと、ディマ氏は話した。 「私は拒否した。自分が前へ行く必要はなかったが、それでも命令できなかった」 その結果、憲兵に逮捕され、ロシア軍がドネツク州ザイツェボに作った仮設の拘束施設に連行されたと、ディマ氏は述べた。 ディマ氏は、「そこで電気ショックで拷問された」と振り返った。最初の衝撃で排便してしまったほどの強さだったという。 ディマ氏は72日間、毎日拷問を受けたと話した。「向こうは、ひたすら拷問するんだ。それしかしない。毎日、石のような無表情でやる。感情がない。狂っている」。 BBCが話を聞いた兵士4人は現在、全員がロシア国外にいる。4人全員に、ウクライナの前線で負った精神的な傷が残っている。 「夢を見る。森が遺体で埋め尽くされている夢だ。みんな顔がつぶれて、汚れた白い口の中に血があふれている。それからにおいが……においじゃない、味がする」と、ディマ氏は語った。 「私は犯罪者だ。誰も気にしない。私の罪は、殺したくないという、ただそれだけだ」 「ロシア軍には、この戦争を必要としていない者、指揮官を憎む者、プーチンを憎む者、ロシアの体制を憎む者が大勢いる。だから、連中は私たちを壊す必要がある」 イリヤ氏は、自分はロシアを愛しているが、「プーチンが祖国にしたことは愛せない」と述べた。 「そこでは誰でも壊される。強いかどうかは関係ない」 「彼らは私をほとんど壊したが、完全には壊せなかった」 (英語記事 Russian soldiers tell BBC they saw fellow troops executed on commanders' orders)