司法手続きの効率化にとどまらず、使い勝手の良さや審理の充実に生かしていくことが肝要だ。 民事裁判の全面デジタル化が、全国の裁判所で始まった。 紙と対面が中心だったやりとりが原則電子化され、提訴や裁判記録の閲覧、判決文の受け取りなどがオンラインでできるようになった。 社会全体がデジタル化する中、これまで遅れていた司法分野での利便性向上が期待される。 日本の裁判を巡っては、当事者の日程調整に時間がかかるなど、手続きが非効率で、審理期間の長さが課題だった。海外の主要国と比べIT化が進んでおらず、経済界などから批判が強まっていた。 このため2022年に民事訴訟法を改正し、段階的にデジタル化を図ってきた。ウェブ会議での口頭弁論の実施は、地方の遠隔地を中心に導入が広がっている。 今回の全面施行に伴い、従来は郵送や窓口に持参していた訴状はオンライン提出が基本となる。具体的な主張書面も電子化され、当事者と裁判所がシステム上で共有する。一方、代理人のいない「本人訴訟」では紙の書面も認める。 課題となるのは、デジタル化に対する習熟度のばらつきだ。パソコン操作が苦手な高齢の弁護士が苦慮するとの懸念が聞かれる。 日弁連によると、訴状提出に必要な裁判所システムの登録は、昨年10月時点で全弁護士の6割強にとどまるという。研修などの支援が求められる。 裁判官と直接顔を合わせる機会が減ると、原告や証人らの訴えをどう理解してもらうかという点も悩ましい。法廷に設けるモニターで傍聴が可能だが、憲法が定める「裁判の公開」を保障するには、適切な運用が欠かせない。 さらに、情報漏えい対策や、通信障害などの事態も想定した備えなど、留意すべき点は多い。 司法手続きのデジタル化は、民事裁判以外でも進展している。 離婚や相続などを行う家事事件では、28年6月までに調停や審判の電子申し立てが導入される。 刑事も来年3月末までに、逮捕状や捜索令状を電子化し、オンラインで請求・発付が可能になる。 さまざまな手間や時間的制約が減り、利便性が向上するのは確かだろう。ただ、デジタル化が全ての問題を解決するわけではない。 運用状況を検証し、国民に信頼され、使いやすい仕組みに改善を続けなければ、意義は薄れよう。 裁判官や家裁調査官の増員を含め、環境整備も急務である。