涙は見せない 犯人が喜ぶだけ 妻殺害された男性が滋賀・草津で講演

【滋賀】1999年に名古屋市で殺害された女性の夫・高羽悟さん(69)が、25日に草津市で講演を開いた。昨年10月に容疑者が逮捕されるまで26年、被害者遺族として歩んできた道や、いま加害者側へ抱く思いなどを語った。 高羽さんの妻の奈美子さん(当時32)が99年11月、当時住んでいたアパート2階の一室で殺害されているのが見つかった。長男は当時2歳。昨年、高羽さんの同級生が容疑者として逮捕された。 「犯人に心当たりがなかった。悪い予感がした」。事件直後、高羽さんはそう感じた。その通り、容疑者逮捕まで長い年月が過ぎてしまった。 子連れの若い母親を見ると、「奈美子にもこんなふうに子育てをさせてやりたかった」という思いがわいたという。仕事は残業が多かったが、両親に預けた息子の元へ午後7時には帰り、休日は一緒に過ごしてきた。 メディアの取材では、絶対に涙を見せなかった。逆に、息子と野球やサッカーをする様子を撮ってもらった。 「遺族が苦しむ姿を見れば、犯人が喜ぶだけだと思った。私たちの抵抗だった」 奈美子さんが大事にしていたCDや本がある現場の部屋は、片付ける気になれなかった。部屋を借り続け、玄関に血痕が残る場所で、何度も取材を受けた。支払った家賃は2200万円を超える。不動産会社が交渉し、大家が家賃を下げてくれたことなどを挙げて、「協力してくれた人たちがいたからやってこられた」と話した。 容疑者が同級生だと知ったときは、奈美子さんを自分の関係者によって死なせてしまったとショックを受けた。毎月、銀行へ家賃を振り込みに行く際に、容疑者の自宅前を車で通っていた。身近なところにいたことに驚いた。 事件の1カ月前、家族でディズニーランドに行った。奈美子さんの母と同居する予定のマンションも契約していた。「人生で今が一番幸せかもしれない」と、奈美子さんが話していたことを覚えている。 「被害者になるのは突然。家族が死んだら、人生めちゃめちゃ変わります。皆さんも今の通常の生活を大事にして下さい」 容疑者は現在、愛知県警などの調べに黙秘していると伝えられている。講演後の取材に高羽さんは、「正直に話してほしい」とした。そして犯罪加害者へ向けて、願いを込めるように言った。 「刑期を終えたあとからが償いだと思ってほしい。再犯しないことが、被害者や遺族に対する償いだ」(榊原織和) ◇ 高羽悟さんの講演は、保護司で草津市の高岡由喜晃(ゆきてる)さん(63)が企画した。2024年に大津市で、保護司が担当の保護観察者に殺害された事件から2年。犠牲になった新庄博志さん(当時60)の友人で、「被害者の視点から更正支援を考えたい」という思いがあった。 「なんで新庄を殺したんや」。新庄さんとは青年会議所の集まりで知り合い、その後は保護司同士として30年来のつきあいだった。保護司の活動に熱心で、本当に優しい人だった。そんな彼をなぜ、という気持ちは今もある。 突然の事件で初めて被害者側の立場になり、気づいたことがある。保護司として、加害者とは向き合ってきた。一方で、事件で生まれた被害者がいる。「更正のために、生育環境を気にしたり、一生懸命働こうと言い続けたり、(立ち直り支援の)対象者のことしか見ていなかった」 被害者は事件に対してどんな気持ちがあるのか。加害者に何を思うのか。それを知るために、被害者や遺族の話を聞きたいと思った。新庄さんは、滋賀の保護司の意識改革や活性化に取り組んでいた。だから、自分への宿題のような気がした。 「万引きにも痴漢にも、被害者がいる。その存在と、加害によってどんな苦労をするのかを伝えていかなくては」 さまざまな事件の関係者に連絡を取り、その中から高羽さんが来県してくれた。講演で明るく話す姿に、かえって長い年月で重ねた苦労や努力がにじんでいると感じた。 保護司が被害者を意識することで、加害者にかける言葉も変わるはず。「答えはないが、一人でも多くの更正につなげていきたい」(榊原織和)

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