排泄ケアの専門家も、母の介護に大苦戦。日々のストレスに加え、尿や便の臭いが脳を刺激、介護者から冷静さを失わせることも。ひとまず外の空気を吸って

高齢者の排泄ケアについて普及啓発を進めてきた第一人者、西村かおるさん。しかし実母の介護では思い通りにいかず、さまざまな壁に直面したといいます。試行錯誤の末にたどり着いた、負担を減らす介助のコツとは——(構成:古川美穂 撮影:藤澤靖子) * * * * * * * ◆尿や便の臭いが介護者の冷静さを奪う 家族介護には大変な場面がたくさんありますが、もっとも難しいのはやはり、排泄に関するケアではないでしょうか。 介護に疲れた家族による「介護殺人」で亡くなった高齢者は、2024年度までの10年間で少なくとも129人に上ります。未遂など水面下での事象も含めれば、その数は膨大なものに。そして実は、こうした介護殺人や虐待のうち少なからぬケースが、排泄問題を機に起きているのです。 今年の3月に東京・杉並区の自宅で94歳の母親を64歳の息子が階段から引きずり下ろしてけがをさせたとして逮捕され、その後母親は搬送先の病院で亡くなりました。報道によると母親は認知症を患っており、介護していた息子は「便を漏らした母を早く風呂場に連れていくためだった」「母に対する怒りもあった」などと供述しています。 24年に東京・国立市の自宅で102歳の母親を71歳の娘が殺害した事件では昨年、被告の娘に懲役3年、執行猶予5年の判決が下りました。事件の少し前から母親の排尿回数が異常に増え、娘は10分おきにトイレ介助。母親が頑なにおむつを拒むため、娘はそのたび母を抱きかかえてベッド脇のポータブルトイレまで運び、腰を痛めていた。 事件当日も頻繁にトイレへ行きたがる母親が午前4時過ぎにベッドから転落し、娘は自分の力で母親を動かせず119番通報。その際に救急隊員から「こういうことで呼ぶのは今日限りに」と言われたそうです。隊員が引き揚げた後も母親は繰り返しトイレに行きたいと訴え、その2時間後、娘は犯行に及びました。 ほかにも、洗濯したばかりの布団を失禁で汚されカッとなって殴ってしまったとか、罰として外に寝かせたら死んでしまったというような話もあります。 積もり積もった介護の疲れや怒りなどの感情が、排泄の失敗を機に爆発してしまう。追い詰められていたところに、尿や便の臭いがダイレクトに脳を刺激し、介護者から冷静さを失わせてしまう瞬間があるのです。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加