「被告は事件を起こす以外の方法により、被害者から逃れることはできませんでした」 弁護人が証言台の前で冒頭陳述をはじめると、女は両手で顔を覆って泣きはじめた──。 ’25年×月×日にさいたま地裁で開かれた裁判。被告は長年の義母(当時68)からの仕打ちに耐えかねてある日、衝動的に手にかけてしまった田中晴美(仮名・当時55)だった。 事件が発覚したのは’23年×月×日。同居する被害者の長女から『母が死んでいる』との110番通報がきっかけだ。翌日に死体遺棄の疑いで逮捕されたのが、被害者の長男の嫁である田中晴美だった。その後、『義母の首を絞めて殺しました』と供述し、殺人容疑で再逮捕されている。 田中被告は調べに対して『私がお金を隠し持っていると毎日追及され、頭にきていた』と語っていた。単に嫁と姑の不仲が高じて起きたかに思えたこの事件だったが、裁判では、被害者からあらぬ疑いで日々追いつめられ、ある日突然、限界を迎えてしまった田中被告の苦悩と、その背景にあった“いびつな家族関係”が見えてきたのだった。 初公判で明らかになった事件の経緯は次のようなものだ。 田中被告は結婚後、新潟市内で夫と息子の3人で暮らしていたが、’14年ごろ、さいたま市内のメゾネット式のアパートに引っ越した。さいたま市内のアパートでは、夫の母親と妹2人が加わり、6人で暮らしていた。田中被告は“家族ヒエラルキー”の最下層に位置していたという。 「被害者となった田中被告の義母は『自分が田中家の要である』と公言。立場が最も低い被告に朝5時までに起床するよう命じ、弁当に入れる食材の色や夕飯の品数まで細かく指示したうえ、家族が家に出入りした時間やご飯を食べたかどうかの報告をさせていました」(弁護人の冒頭陳述より)