ドライブ中に激しい腹痛が襲い、飛び込むように通り沿いのコンビニエンスストアへ駆け込む。しかし、トイレのドアには「トイレのみの利用お断り。ご利用の際は必ず商品を1点以上お買い求めください」との貼り紙が貼ってあった。 一刻を争う状況にそのまま直行し、用を足して何も買わずに店を出ようとしたところ、店員から「貼り紙を見ませんでしたか?何か買ってください!」と呼び止められてしまう。 急病などの緊急時であっても、店側が掲示するルールに従わなければならないのか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。 ーコンビニの「商品購入が必須」の貼り紙に法的拘束力はありますか? 店の「ルール」としての効力はあります。コンビニは私有地であり、店側には「どんな条件で店舗や設備を使わせるか」を決める管理権があるためです。したがって「商品購入が利用条件」という貼り紙も一応のルールとして成り立ちます。 ただし、これ自体が警察を動かすような法律というわけではありません。現実的には「店舗側の利用条件」として提示されているものであり、無用なトラブルを避けるためには、利用客側もマナーとしてこのルールを尊重するのが望ましいといえます。 ー買い物をせずにトイレだけ使って立ち去ると何の罪になりますか? 法律を厳格に当てはめれば、管理者の意思に反して立ち入ったとして建造物侵入罪(刑法130条前段)が論理上検討され得ます。しかし、現実の警察捜査において「トイレだけ借りて何も買わずに立ち去った」というだけで逮捕や摘発に至るケースは極めて稀です。 単に買い物をおこなわなかったことだけで即座に刑事事件化するわけではありませんが、店員から「出ていってください」「買わないなら使わないで」と明確に注意されたのに居座り続けた場合などは、不退去罪等のトラブルに発展するリスクがあります。 ー「緊急事態(激しい腹痛等)」なら無断使用もセーフですか? 激しい腹痛など一刻を争う状況であれば、刑法上の緊急避難(刑法37条)の発想が馴染み、立ち入り自体が問題視される可能性はほぼありません。現実的にも、体調不良で駆け込んだ客を店側が警察に通報して罪に問うような対応をとることは考えにくいでしょう。 ただし、用を足して落ち着いたのであれば、そのまま無言で立ち去るのではなく、一声お礼を言ったりお茶やガムなどを1点購入したりするのが大人としての現実的なマナーであり、不要な口論を防ぐ最善策です。 ー店側が「トイレ無断使用」の客に損害賠償を請求できますか? 理論上は民法上の不法行為などとして請求可能ですが、現実にはハードルが高く請求される可能性は低いです。裁判を起こしたとしても、認められる損害額はトイレットペーパー代や水道光熱費など「数円〜数十円程度」の実費にとどまります。 また、貼り紙に「無断使用は罰金1万円」などと書かれていても、法的な根拠のない「店が独自に設定した違約金」に過ぎず、裁判で全額が認められることはまずないでしょう。 ●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。 (よろず〜ニュース特約ライター・夢書房)