世界の法の秩序を大国の「力の支配」で一方的に踏み潰そうという卑劣な攻撃である。 戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所(ICC)本体を米トランプ政権が制裁対象に指定した。 赤根智子所長ら判事個人への制裁に続き、ICC解体に向けた圧力を一段と強めた形だ。 ノーベル平和賞にICC裁判官を務めたナバネセム・ピレイ元国連人権高等弁務官(85)が選ばれた直後に発表した。米国の力が「法の支配」に勝るといわんばかりの暴挙である。 赤根氏は「決して屈しない」との決意を示した。日本をはじめ加盟各国は結束し、米国に撤回を迫る行動が求められる。 制裁は、トランプ氏が国際法を無視したベネズエラやイランへの武力攻撃で訴追されることを何より恐れている証左といえる。 ICCは、戦争や人道への犯罪で、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領や、ガザで「虐殺」を続けるイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出した。 米国はICCへの対立姿勢を強めてきた。反発するロシアも所長らを指名手配して拘束を求めており、大国の横暴さを浮き彫りにしていよう。 ピレイ氏の平和賞受賞決定は、ICC攻撃への危機感を示したものといえる。 南アフリカ出身のピレイ氏はルワンダ虐殺を巡る国連の国際刑事法廷にも携わり、近年は国連委員会のトップとしてイスラエルのガザ攻撃をジェノサイド(集団殺害)だと批判した。 受賞発表後にオランダ・ハーグのICCを訪問。「職員の勇気が、罪が見逃されることがないよう保証し続けている」と勇気づけた言葉を重く受け止めたい。 制裁により、ICCは国際金融システムから事実上締め出され、活動停止の危機にある。 事前に情報システムを入れ替えるなどの代替策を講じているが、二次制裁を恐れる金融機関が取引を避ける恐れがある。 米国は業務維持に必要な取引について180日間の猶予を設けた。ICC非加盟の米国を裁かないことを認めさせる狙いが透けるが、特別扱いはICCの存在否定に他ならない。 制裁に対し、日英仏など8カ国の外相や締約国会議の議長団が反対の声明を発表した。日本は米国への直接批判を避ける姿勢を続けているが、国際平和と法の支配を守る外交の真価が問われている。